第3章 後編
ユーリの言葉に青年は笑みを浮かべると、視線がちらりと踊る二人を追った。
「あの人、本当に何者なんだろうね。——王女殿下があれほど楽しそうになさるのは珍しい」
2人はお似合いと言いたげな言葉と共に、ふと、ユーリにむかって手を差し伸べた。
「よろしければ、僕と一曲いかがですか?」
碧い目がまっすぐユーリを見つめていた。恐らく社交辞令かもしれないが、差し出された手は白手袋に包まれ、指先まで無駄のない所作だった。
騎士団団長という肩書きに恥じない洗練された振る舞い——だが。
ちょうどその時、ワルツが終わった。レティシアの息がわずかに弾んでいて、頬は薔薇色に上気していた。
アーデンから離れがたそうに、レティシアはもう一曲と誘ったが、アーデンはさっと身を引いて、一曲という約束だったので断った。
そしてアーデンの金の目がテーブルの方へ流れた。
見知らぬ青年がユーリに手を差し伸べている。
その光景を認めた瞬間、飄々とした笑みがすっと消えた。
空気が変わったのは一瞬だった。それなりに距離があるにもかかわらず、アーデンの纏う気配が冷えた。それは殺気とまではいかない——けれど、明確な不快だった。レティシアもそれに気づいたのか、アーデンの視線の先を追った。
「……レオンハルト?」
レティシアの呼びかけに振り返りもせず、差し出した手もそのまま。
「ご客人を退屈させるのもどうかと思ってね」
悪びれもしない声だった。
むしろアーデンの反応を楽しんでいるようにすら見える。
アーデンはテーブルまで戻ってきて、椅子の背もたれに片手をかけた。
「へぇ。——オレが踊ってる間に随分と親しくなったんだね」
レオンハルトはようやく振り返って、爽やかに笑った。
「ご安心を。ダンスのお誘いをしただけですよ、アーデン殿。」
レオンハルトは人の悪そうな笑みを浮かべ、ユーリに近づくと手を掴み、耳元でこう囁いた。
「僕は小さい頃、あなたの歌を聞いたことがあるんですよ」
掴まれた手首にレオンハルトの指が絡む。耳元の囁き——その声は先ほどまでの人当たりの良さとはまるで別物だった。低く、冷たく、含みを持っていた。