第3章 後編
王女と一瞬目が合ったユーリは、疑問符を浮かべながら二人の様子を見守っていた。
すると、テーブルに紅茶が注がれ、案内されるままに腰を掛ける。
侍女が手際よくケーキやマカロンを並べていく中、レティシアは自然とアーデンとユーリの間に腰を下ろした。
「アーデン様は本日はどのようなご用件でこちらに?」
王女からの質問に、アーデンは当たり障りなく休暇中とだけ伝える。
もちろん、身分は王女の方が高いので敬語を使い、礼儀を持って対応していた。
「まあ、敬語なんて使わなくていいんですよ。それにしてもご旅行中にこのようなことに巻き込んでしまって——でも、こうしてお会いできたのは運命ですわ」
敬語を使わなくていいことと「運命」という言葉に護衛騎士の眉がぴくりと動いた。「殿下、それはさすがに」と言いたげな顔だが、口には出せないらしい。
「それで、こちらの方は?」
ふとユーリに視線を向けて、社交的な笑みは崩していないが、アーデンとどういう関係なのかを測ろうとしているのは明白だった。
王族としての嗅覚か、あるいは女の勘か——おそらくその両方だろう。
「オレの大事な人」
さらっと言い放ったが、「大事な」の部分に妙な力がこもっており、テラスの空気が一瞬止まる。
アーデンからの分かりやすい線引きの仕方に、レティシアはまばたきをゆっくり一つし、それから微笑んだが目の奥が微かに揺れた。
「……そうでしたの。失礼いたしました、ご挨拶が遅れてしまって」
護衛騎士が露骨にほっとした顔をした。修羅場にならずに済んだとでも思ったのだろう。
だが当のレティシア本人は引き下がる気配がなかった。
「ではお二人でご旅行を?素敵ですわね。——あの、もしよろしければ今日のお礼に明日の晩餐をご用意させていただけませんか?ぜひお二人とも」
ユーリは黙ったままだったが、「お二人とも」という言葉には明確な意図が透けていた。「二人を分断するつもりはない」という宣言であり、「でも距離は縮めたい」という宣戦布告でもある。
アーデンはカップの縁から目を上げた。少し間を置いてから、ユーリを横目で見る。
判断を委ねるような視線だった——自分が勝手に決めると面倒なことになると分かっているのだろう。