第3章 後編
「お久しぶりです。先ほどは助けていただきありがとうございました。」
王女はその目はきらきらと輝かせアーデンに近寄る。
アーデンは乾いた笑みを浮かべ、最低限の礼儀を持って対応をした。
王女の表情には恐怖の余韻など微塵もなく、あるのは純粋な感謝と——もう一つ、別の熱だった。
「覚えていますか?以前あなたがこの国に来た時に提供してくださった技術のおかげで…」
王女…名はレティシアといい、アーデンとの距離を詰め、やや興奮気味に昔話に花を咲かせる。
アーデンのやる気のない変装を遠目からでも見破れるほど、王女は彼の事を知っているのだろう。
そして、身分ある者としては些か不用心なほどの距離感に、アーデンの正体に気づいていない護衛の騎士が眉をひそめているのも無理はない。
命の恩人とはいえ、素性も知れぬ男に王女がここまで接近するのは前代未聞だろう。
アーデンはいつもの飄々とした笑みを浮かべているが、どうしたものかと思考を巡らせた。
正直、記憶にはほとんど残っていないくらいの存在であり、外交で訪れたことは確かだが、ここまでの熱量を持って接してくるのは想定外だった。
アーデンは王女と話を進めていくうちに、彼女の中に私情が入っているのになんとなく気が付き、ため息をそっと吐いた。
何を好んでこんな年上を、とも思ったがどうすることもできないので、当たり障りなくこの場を切り抜けるしかなかった。
「あの魔獣を一瞬で退けるなんて、並の方ではありませんわ。あなたはやはりとても強い方なんですね」
レティシアの声には甘い響きがあった。そしてちらりとユーリに目を向け——ほんの一瞬だけ、値踏みするような光がその翡翠の瞳をよぎった。