第1章 1
「待てよ、まだ聞いてない……返事」
そう言いながら優しく抱きしめると頭をそっと撫でる。その手が、声が、表情が、愛おしくて私は躊躇いながらも快斗の背中に手を回した。
「……ゆい……」
快斗が私を離し、顔を近づけてくる。私はそっと目を閉じると――
「いっ……!」
快斗の頬をつねった。
「誰があんたみたいな変態怪盗好きになるものですか。ありえないから〜」
「ゆい、てめぇ……」
「自惚れもいい加減にしなさいよね」
そう言いながら快斗から離れ私は玄関に向かう。
「じゃあね、自惚れキッドさん」
バタン
と、寂しい音が響くと快斗はその場に座り込んだ。
――自惚れ、か
「……振られたのか……」
1人つぶやく寂しげな言葉を聞くものは誰もいなかった。
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私は快斗の家を出るとまっすぐ帰路に着く。そして落ち込んでいた。
「はぁ……意地張っちゃった……何が好きじゃないよ……」
なんであんなこと言ったんだろ……あんなに嬉しかったのに……、
そう、嬉しかった。好きだと言われて、疑うよりも先に嬉しさがこみ上げた。それくらい私はあの男に夢中になっている。
「まずいよなぁ……」
これ以上深入りすればきっと傷つくことになる、人の心は移ろうもの、いつまでも私を好きとは限らない。それなら叶わない恋の方がいいのかもしれない。それでもここまで育ってしまった気持ちだ、そう簡単には消せないのだろう。
「月曜から少し距離を置くか……」
快斗からすれば私のあの対応は振られたととらえるだろう。それならそのまま気まずい雰囲気にしてしまえばいい。でも……
もう気軽に話せなくなるんだよね……きっと辛いだろうな……快斗意外にモテるからすぐ他の子好きになるのかも……やっぱ今まで通り接した方が……いや、でも辛くなるの嫌だし……
「あぁもう!月曜から距離置く!」
ちまちま考えているのが嫌で、私は半ば強引に決めた。
明日の仕事が終わったらもう快斗とは距離を置く!これでいい……
そう強く決めていても家に帰ったり1人になったりすると私は快斗のことばかりを考えていた。
大丈夫、きっと大丈夫……
そう言い聞かせながら私は1人夢の世界へ入った。
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