【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
寒椿の前で交わされる、約束。
「───なぁ、赤葦」
銀色の髪から落ちる雫もそのままに光太郎は、首を縦に振った八重に儚い目を向けた。
風邪を引くからと赤葦が目を吊り上げるので着替えてきてみれば、自分が先ほどまでいた井戸端では八重と若利が向かい合っている。
それは丁度、若利の招きを八重が承諾したところで、割って入ることもできないもどかしさに溜息混じりの笑みを漏らした。
「八重、ウシワカに取られちゃうかもしれないな」
濡れた光太郎の着物を抱えていた赤葦も、無言のまま顔を上げて井戸の方を見た。
悔しいとか、悲しいとか、目で見てすぐに分かる感情はそこになく、ただ真っ暗な闇に目を凝らすかのような視線。
「これがお前の望んでいることなの?」
だが、光太郎にそう問いかけられた瞬間、赤葦の冷めた瞳に初めて動揺の色が浮かび上がった。
「私の“望むこと”とは・・・どういった意味でしょうか、旦那様」
はぐらかそうとしても、それは無駄だろう。
「お前と牛島夫人が何を話しているか、だいたい検討がつく」
「・・・・・・・・・・・・」
光太郎は無邪気で単純だが、馬鹿ではない。
むしろ、相手の心の働きを的確に捉えることに誰よりも長けている。
赤葦が何も言わずとも、自分に隠れて何かをしていることは分かっていた。
「別に話したくないならいいよ。俺はどうであってもお前を信じるだけだからさ」
「旦那様・・・」
「お前のすることは全て、俺と八重を考えてのことだもんな」
自分と結婚してもらうために八重を木兎家に呼んだ。
その目的は今も変わらないし、そのことは赤葦も承知のことだと信じている。
ただ、木兎家の狂った歯車の中であっても、八重には笑っていてもらいたい。
そう思うほどには大切な存在だ。