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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第6章 冬霞




「八重? 浮かない顔をしているな、この花は嫌いだったか」
「いいえ、そうではございません」

散る際は、潔く花ごと地面に落ちる椿。
首が落とされるようで縁起悪いとされることもあるらしいが、美しさを保ったまま滅びていくのは幸せなことなのかもしれない。

でも・・・


───光太郎さんには、若く美しいまま首を落とす椿のような最期を迎えて欲しくはない。


「誰もが素通りしてしまうような小さき花にも目を留める・・・若利様はとてもお優しいのですね」


冬の風が、汗ばんだ若利の肌から体温を奪っていく。
しかし寒いとは思わなかった。
寒さを忘れるほど彼の意識を掴んでいたのは、寒椿を見て寂しそうに俯く木兎家令嬢。

「俺は別に優しくなどはない。さっきも言っただろう、お前に庭の楓を見せると約束したあの日から、なんとなく木々に目がいくようになっただけだ、と」

でも、そのように寂しそうな顔をするならば、今度はもっと華やかな花を見つけてこよう。
そうすればお前は微笑んでくれるだろうか。

すると八重は若利の意思を汲んだのか、ふと口元に笑みを浮かべた。


「若利様に見つけてもらえた花は幸せです。そうでなかったら、人知れず散っていくだけの運命だったかもしれませんから」


赤葦の言葉が脳裏に蘇る。


“八重様が嫁ぐ先によっては、木兎家は新しい時代で生き残る力を得られるかもしれない”


絶大な権力を持つ牛島侯爵の力添えがあれば・・・
その嫡男である若利に見初められれば・・・

赤葦の言う、“木兎家の利益”になり得るだろうか。


「でも、若利様は椿よりも“百花の王”牡丹が似合います」


微笑む八重の向こうに赤い寒椿。
若利は今までに経験したことのない感情を覚えた。
それはまだ恋と呼ぶにはあまりにも淡いものだったが、一つだけ確かなことがあった。


「屋敷の庭の木にはまだ葉がついていないが・・・」


この令嬢をただ守りたい。
家柄や剣術ではなく、可憐な花が落ちないようこの手で支えてやりたい。


「八重、お前をうちに招いても良いだろうか」


表情こそ変わらないものの、若利の瞳には少しだけ熱が込められていた。










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