【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「ヘックシュ!!!」
沈黙を破る、大きなくしゃみ。
十二月の寒空の下で冷水をかぶれば仕方がないだろう。
「ほら、言わないことではない」
片方の穴からダラリと鼻水を出した光太郎の鼻に手ぬぐいを当てながら、赤葦は頭の中で様々な言葉を巡らせていた。
これまでなら、夕食に肉をたくさん用意しますと言えば、すぐに機嫌を直したものだ。
でも・・・今は・・・
「・・・八重、がっかりしてるかな。ウシワカに勝つって約束したのに」
───やはり・・・八重様か・・・
赤葦は一瞬だけ辛そうに眉間にシワを寄せてから、光太郎には何も悟られないよう、持っていた手ぬぐいでそのまま濡れた髪をワシワシと拭いた。
「ちょ、赤葦、それ今俺の鼻水拭いたヤツだろ!!」
「大人しくしてください、風邪をひきたいんですか?」
八重にとってそうなりつつあるように、光太郎にとっても八重の存在が大きくなりつつある。
赤葦はそれが怖かった。
もしそうなったら・・・京香の想いはいったいどこに行けばいいのか。
「次こそは勝ってくださいね、“光太郎さん”」
「・・・赤葦?」
「俺もたまには白布にギャフンと言わせたいので」
光太郎はすっかりと機嫌が直っているようだが、赤葦は灰色の冬空を見上げた。
寒くて、冷たくて、暗い。
京香の恋心はずっとこの冬景色のような世界に閉じ込められている。
「俺に・・・俺達に、光を見せてください・・・光太郎さん」
俺は、何を傷つけてでも姉さんを守ります。
そして何より光太郎さん、貴方を守ります。
「赤葦? どうした・・・なんか怒ってる?」
水に濡れた道着が容赦なく光太郎の体温を奪っていく。
だが、全身に寒気を覚えたのはそのせいでなく───
「いいえ、怒ってなどいませんよ。ただ、次こそは光太郎さんが牛島若利に勝って欲しい、そう願っているだけです」
赤葦の氷のような瞳が、光太郎に胴震いをさせているからだった。