【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
案の定、光太郎は若利に負けた悔しさからか、真冬だというのに井戸の冷水を頭から被っていた。
バシャン、バシャンという派手な水音が響く裏庭。
赤葦は溜息を吐きながら光太郎の方へと歩み寄る。
「旦那様、何をしているんですか!」
「うるせぇ、一人にしてくれ!」
「水なんか被ってどうするんです?」
「ウシワカに負けた不甲斐ない自分を戒めてんの!!」
身体はガタガタと震えているのに頭は冷えていないのか、光太郎は悔しそうに真っ青な唇を噛んでいた。
悔しい気持ちは分かるが、このままでは身体を壊してしまう。
「着替えましょう、風邪をひきます」
「・・・・・・・・・・・・」
「風邪を引いたら、苦いお薬を飲まなければいけなくなりますよ。それでもいいんですか?」
それは御免らしく、光太郎は不貞腐れつつも持っていた釣る瓶を地面に置いた。
まだそこから動く気にはなれないらしいが、赤葦の言う事を聞けるぐらいには気持ちが落ち着いたようだ。
「・・・俺、やっぱりウシワカには勝てないのかな」
「でも力の差はありませんでしたよ。若利様の方が少しだけ技を決める機会作りが上手なだけです」
「・・・・・・・・・・・・」
「もう一度やったら、今度は旦那様が勝つかもしれません」
そう言った所で、赤葦は“しまった”と思った。
今の光太郎では十中八九、負ける。
それが分からないほど光太郎も未熟ではないし、さっきの励ましの言葉はやぶ蛇だ。
もっと強い褒め言葉を探さなければいけない。
褒め言葉・・・光太郎の機嫌が一発で直る、都合の良い言葉・・・
その瞬間、赤葦の脳裏にある一言が蘇った。
“でも私は光太郎さんの方が好きよ”
光太郎を見つめる彼女の視線には、尊敬以上の何かが込められていた。
「赤葦?」
「・・・いえ、なんでもありません」
若利の剣よりも光太郎の剣の方が好きだと言った八重。
それがただの“贔屓目”であれば良いが、そうでなかったら───