第6章 秋は夕暮れ①
これは一体何の罰だろうか。
インターハイ最終日。最後のスプリントラインを通り過ぎた時、新開は1人だけ他の観客の目線の先とは反対方向に走る彼女を見て、そう思った。
すれ違ったのはほんの一瞬のことで、普段なら気がつかないほどの僅かな瞬間。
しかし風になびく彼女の金髪が綺麗すぎて、彼女の目があまりにまっすぐその先を見ていたから、新開は目を奪われた。
どうして見逃させてくれなかったのか。
その方がずっと幸せだったのに。
彼女の目線の先、そこにいるのがアイツじゃなかったら。
もう少しだけ痛くなかったかもしれないのに。
こんな結末になるのなら
あの日の彼女の悲しみも
見逃せば良かったって思うのに。
、、、本当にひどいよな、神様は。
それともこれは醜い俺への罰ですか、、、?
中3の夏、怪物と呼ばれた彼女に興味を持った。最初は鬼と呼ばれる自分と似たような呼ばれ方をする彼女が、どんな泳ぎをするのか見てみたいと思っただけだった。
ただ勝ちが欲しかった。
貪欲に、激しく欲した者だけが取れると思っていた。
鬼と呼ばれて走る自分は醜いと思う。勝つためにはどんな犠牲も厭わない自分を恐れる人もいたと思う。
そんな新開が初めて彼女を見たとき、こんなに美しいものがあるのかと思った。
しかし彼女を応援するために、ここにはこんなに多くの観客がいるというのに彼女は1人ぼっちに見えた。
新開から見えた彼女の目は「どうせお前ら全員敵なんだろ?」と言っているような気がした。
ねぇ、俺は醜い鬼だけど、
仲間がいるんだ、大切な。
その為だったら残酷な
鬼にもなれるくらい大切な。
そして誰よりも速く泳ぎ終えた彼女は、とびきりの笑顔で小さく拳を突き出した。しかしハッとしたようにすぐにその笑顔を隠した。そして見逃してしまいそうなほんの一瞬、彼女は悲しそうに俯いた。新開はそれを見逃さなかった。
これが怪物?嘘だろ。
新開は笑った。
新開の目に映った沙織は、
美しくも孤独なお姫様。
どうして君は1人なの?
俺は君の敵じゃないよ。
そう伝えたかった。
怖くはないよ、鬼だけど。
だから今度は
こっちを向いて笑ってよ。
そのとびきりの笑顔で。
隠さないでよ。
その悲しい顔だって。
全部受け止めてあげるから。
俺じゃダメかな?
お姫様。