愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
智side
「あの瞬間…僕は翔君のことを忘れた。大切な人なのに…大好きな人なのに」
こんなにも胸が苦しくなる程、大好きなのに…
なのに僕はその大切な人を、僕の独りよがりの感情のせいで、たとえ一瞬であったとしても、その存在すら忘れてしまうなんて…
そんなこと、あってはいけないことなのに…
これ以上誰も傷付けないために…誰も苦しめないために、僕は翔君の傍にいない方がいい。
それに雅紀さんはああ言ったけど、潤はきっと僕を許さないだろう。
理由がどうであれ、実の親に向かって刃を向けた相手を、簡単に許せてしまう程、あの男は優しくなんかない。
仮に二人の間に、埋めがたい溝があったとしても、だ。
僕がこのままここに…翔君の元に留まれば、それはまた別の憎しみを産むことにもなり兼ねない。
それだけは避けなくては…
「だからごめん…、僕は翔君の傍にはいられない…そんな資格ない」
ごめんね…
それから…
こんな僕を愛してくれてありがとう…
一言も言葉を発することなく、俯いたままの翔君の頬に手を伸ばす。
これで最後だから…
瞼の裏にその姿を焼き付け、指の先に翔君の体温を記憶しておきたかった。
でもその手はとうとう翔君の頬に触れることはなく…
僕は精一杯の笑顔を翔君に向け、翔君の横を摺り抜けた。
さようなら…
心の中で別れの言葉を告げながら。
そして木扉の取手に手をかけた時、
「待って!」
今にも木扉を開こうとする僕を、震える声が引き止めた。
「資格って何?君とおれが一緒にいることに、資格なんて必要ない…」
「で、でも僕は君のお父さんをこの手で殺そうとしたんだよ?翔君だって見てた筈だ」
小刀をあの男の背中に向かって振り上げるのを…
「なのに…それなのに、許せる筈がない…」
「そうだね、確かに君のしようとしたことは許されることじゃない。でも君は言ったじゃないか、あの晩…、おれとずっと一緒にいたい、って…。おれを愛してるって…。あの言葉は嘘だったの?」
嘘じゃない…
本当はずっと一緒にいたい。
たとえ翔君が僕を許してくれなくたって、僕はずっと翔君の傍にいたいし、愛し合いたい。
でも、そんなこと…