愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
木扉の開く音に、こちらを向いた二人は、それぞれ違う表情を浮かべていて。
雅紀さんは和也といる時とはまた違った穏やかな雰囲気で、智の隣に座っている。
そして智は、濡れた瞳でじっとおれを見つめ。
誰も声を出すことはおろか、身動きすらできずにいた。
しばらくの沈黙の後…
雅紀さんが静かに立ち上がり、智の肩をひと撫ですると
「私は下の様子を見てくるよ。松本のことも心配だからね」
そう言い残すと部屋を出て行こうとする。
すると智は
「雅紀さん…っ、待って」
後を追って立ち上がると、振り返った彼に腕を回して。
「ありがとう…ごさいました」
そう小さな声で言った。
「幸せになるんだよ」
「…はい……」
穏やかな声が交わり二人は離れると、年長の彼はおれを見て、ひとつ頷きをくれた。
おれがそれにどう言葉を返したらいいのかわからないでいるうちに、雅紀さんは部屋を出ていってしまった。
ぱたん…と扉が閉まるのを見て、おれの視線は床に落ちてしまい。
どうしても智の方を見ることができなかった。
言葉が見つからない…
拗れた感情が、おれから言葉を奪ってしまい、顔をあげることすら躊躇ってしまう。
どれくらいそうしていたか…
「…翔君…、ごめんなさい…」
不意に智の声がして、ゆっくりと後ろを振り返る。
「ごめんなさい…、僕、何にもわかってなかった…」
目の縁に涙をいっぱいに溜めた智が、おれを見つめていた。
「…智……」
「翔君の気持ち…考えなかった。自分のことばっかりで…、他の人のことなんて…何も…」
涙声なのに、それを流すまいと懸命に堪えながら、途切れがちに言葉を紡ぐ。