愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
和也side
雅紀さんに言われて、翔坊ちゃんの着替えを階下へと降りる。
智さんの嗚咽だけが響いていた部屋とは一転、階下はまだ騒然としていて、玄関先には招待客で溢れていた。
その顔は皆一様に蒼白で、中には泣き崩れている人もいた。
俺はそんな光景を横目に、風呂場へと向かうと、脱衣場の木戸を叩いた。
「坊ちゃん、俺です、和也です。入ってもよろしいでしょうか?」
声をかけ、耳を澄ます。
湯にでも浸かっているのだろうか…物音はしない。
「開けますね?」
俺はそっと取っ手に手をかけ、木戸を引こうとしたその時、中から勢い良く木戸が引かれ、真新しい背広を血で染めた坊ちゃんが飛び出してきた。
「ぼ、坊ちゃん…!?」
「和也っ、智は…智はどうなったの?」
色を失くした顔を涙と血で染めて、坊ちゃんが俺の胸倉を掴む。
「坊ちゃん、どうか落ち着いて…。智さんなら、雅紀さんが着いてますから…、ね?だから坊ちゃんは兎に角着替えを…」
かたかたと震える手を解き、半ば無理矢理脱衣場の奥へ押し込むと、
「失礼しますね」
声をかけてから、坊ちゃんの服に手をかけた。
その様子から見る限り、とても自分で着替えが出来る状態ではないと思ったからだ。
「おれ…見てしまったんだ…」
されるがままに服を脱いでいく坊ちゃんが声を震わせる。
「智が…智が父様に向かって小刀を構えるところを…。でもまさか澤が…」
「俺も驚きました」
「薄々は気付いてたんだ…、父様と澤の間には、おれ達が知り得ない何かがある、って…。でもまさか…」
俺は内心激しく動揺しながらも、至って平静を装い、全てを脱ぎ終えた坊ちゃんの背中を押して湯殿へと入った。
檜で作られた手桶に湯を汲み、棒立ちになったまま動けずにいる坊ちゃんの背中に流しかけた。
手の先や顔にこべり着いた血の跡は、緩く絞った手拭いで拭き取った。
一通り身綺麗になった坊ちゃんを湯船に浸け、俺は溢れた湯で濡れた檜の床に膝を着いた。
「熱くないですか?」
「うん…丁度良いよ…」
返って来た声は、さっきとは打って変わって落ち着いて…
良かった…
俺はひっそり胸を撫で下ろした。