愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
「ねぇ、雅紀さん…」
「なんだい?」
胸に埋めていた顔を上げると、それまで僕の背中を摩っていた手がぴたりと止まった。
そして僕の頬を撫で、零れる涙を指が掬ってくれる。
「僕は幸せになってもいいの?僕はまだ間に合う?」
こんなにも愚かで罪深い僕でも、幸せになれるの?
しゃくり上げながら見上げた僕を、春の木漏れ日のような笑顔が見下ろす。
「そうだね…それは智次第…ではないのかな?」
「僕…次第?」
首を傾げる僕の身体がふわりと浮き上がって、長椅子の上に下ろされた。
「こんなに軽くなってしまって…」
骨の浮き出た僕の手を撫でる雅紀さんの表情が曇る。
この心優しい人の笑顔を曇らせてしまう程、僕は雅紀さんに対して酷いことをしてしまったんだと思うと、胸が痛む。
「いいかい、智?人は誰しも幸せになれる権利を持って、この世に生を受けるんだよ」
「権利…?それは僕にもある物なの?」
「勿論。誰でも平等に与えられている物なんだからね。智だって幸せになっていいんだよ?それにね、君は決して不幸などではないよ?確かに御両親の死は幼い君にとって不幸その物だったかもしれない。でも周りを見てご覧?君は気付いていないようだけど、君を愛してくれてる人は沢山いる筈だよ?」
僕の手をきゅっと握った雅紀さんの顔に、再び笑顔が戻る。
まだ幼い僕を、優しく包んでくれたあの笑顔が…
「僕…を…?」
こんな僕を愛してくれている人が…?
「そうだ。和也だって、翔君だって…それから、松本もね」
「あの人…が…?そんな筈…」
散々僕を慰み物のように扱ってきた、あの男が…?
「松本は不器用な男だからね。愛し方と言う物を知らないんだよ。でも本心では智のことを、誰よりも愛している筈だよ?勿論、私もだがね」
「僕は愛されて…る…」
「そうだ、君は愛されてる。どうだい、幸せだとは思わないかい?」
愛される幸せ…
初めて持つ感情に、それまで冷えていた心が、どんどん温かくなっていく。
「雅紀さん、僕幸せになりたい」
大きくなくていい、小さくたっていいから、愛し愛される幸せを、一番大切な人と分かち合いたい。
でも、実の父親に刃を向けた僕を、翔君は許して暮れるだろうか…