愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
智side
二人きりになった部屋で、雅紀さんの腕に抱かれる。
僕の背中に回された腕は、あの日から少しも変わらずに温かく、僕の心に訴えかけるように言葉を紡ぐ声は、優しさに満ちている。
ああ‥、この人の胸はどうしてこうも温かいんだろう‥
なのに僕はこの腕に抱かれている時も、片時だって憎しみの心を忘れたことはなかった。
こんなにも大きくて広い、温かな愛で僕を包んでくれていたのに…
そんなことにすら気付かなかったなんて…
僕はどれだけ愚かな人間なのだろう…
「許せなかった…。僕から全てを奪っていったあの男が…憎くて憎くて堪らなかった…。だから僕があの男を殺せば、父様も母様もきっと喜んでくれるって‥、ずっとそう思って来た。でも違ったんだね…」
あの時、父様がどんな思いで僕を壁時計の中に隠したのか…
母様がどんな思いで幼い僕を抱き、涙を零したのか…
幼い僕を一人残し、どんな思いで二人は逝ったのか…
先の全く見えない全ては僕に幸せになって欲しかったからじゃないのか…
なのに僕がしようとしていたことはどうだ…
幼い僕の胸に焼き付けられた記憶は、やがて憎しみへと形を変え、その持て余す程の憎しみのあまり、売女のように自ら男に身を投げ出し、与えられるままに快楽に耽り、嬌声を上げ続けた。
ふしだらな女のように…
それでも足りなくて、更なる悦楽を求めては、その足元に跪いた。
ただ満たされない心と身体を埋めたい一心で…
そんなことをしたって埋められるわけなんて、ありはしないのに…
僕のしてきたことは、父様と母様を尚も苦しみの縁に追いやっていただけなのに…
そんなことも知らずに僕は…
父様…
母様…
愚かな僕をお許し下さい。