愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
「でも君は幸せだったかい…?」
「…え、幸せ……?」
「そう…、私の元で満ち足りた暮らしをしていたあの頃、幸せだったと…言えるかい?」
復讐の焔を燃やし続けて…
「そんなこと…考えたこともなかった…。父様や母様の無念を晴らすことしか…」
「辛かっただろう…?母上は智に何と言っていた?愛してると腕に抱き、温もりを与えてくれていたのではないか?」
私は胸に抱いていた腕を解き、幼い日の面影を探すように、かつての恋人の髪を撫でる。
「愛しい我が子に幸せになって欲しいと、愛しみを与え、愛される幸せを…愛する喜びを教えてくれていたのではあるまいか…」
「母様……、父様…」
遠い記憶を胸に蘇らせた智は、また涙を溢れさせ
「君に…人を憎むことなど教えはしなかった筈。それは何故だか分かるかい…?」
「それは…父様も母様もそんなことをする人ではなかったから…。優しかった、から…」
「そうだね…、きっと御両親は優しい愛のなかにいることが幸せだと知っていたんだ。だから智にも同じような幸せになって欲しいと願っておられた筈。そのことは分かるね?」
数少ない思い出の中には、溢れるほどの愛を持って愛しまれた記憶はあるだろう。
どうか…亡き御両親の思いを思い出して。
悲しみと憎しみに覆われてしまったその奥に、育んでもらっていた優しい心があることを思い出しておくれ…
智はそんな願いを込めて見つめる私に真っ直ぐな眼差しを返す。
「母様は…僕の幸せを、願っておられた…?」
「私はそう思うよ。愛しい我が子の幸せを最期の瞬間(とき)まで…」
「母様は…、父様は…僕の幸せを……」
「それは私も、翔君だって…皆んな、智に幸せになって欲しいという思いは同じなんだよ」
だから私は…計らずも、智が松本の父を殺めることにならずに済んだことに、心底安堵していた。