愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
死んだ‥、あの男が‥
僕の両親を死に追いやり、僕から全てを奪っていったあの男が‥死んだ‥?
それも、僕以外の手によって、こうも呆気なく‥。
嘘だ、信じられない‥
だってあの男は僕が殺す筈だった。
なのにどうして澤が‥
「僕が殺してやりたかったのに‥」
僕は雅紀さんの両肩を掴むと、乱暴に揺さぶった。
「僕がこの手で、あの忌々しい男を殺したかった!なのにどうしてっ‥!」
「落ち着くんだ、智っ‥!」
いつになく感情を顕にする雅紀さんの声も、今の僕には届かなくて‥
「この手であの男を殺せないのなら、僕はもう‥」
僕は反射的に翔君の机の上にあった鋏を手に取ると、それを喉元に宛てた。
もう生きている意味なんて、僕にはない‥
父様、母様、不甲斐ない僕をお許し下さい‥
鋏を持つ手に力をこめた。
ちくり‥と小さな痛みが走り、熱い物が微かに喉元を流れた。
その時、
「いい加減にしないか!」
普段は手を上げることなど絶対にしない雅紀さんの手が、僕の頬をぴしゃりとぶった。
その衝撃で鋏は僕の手からこぼれ落ち、僕の頬はじわじわと押し寄せる熱に、ひりひりと痛んだ。
「いいかい、智。君の気持ちは分かる。だが、君が死んでどうなる?君が死んだところで、亡くなった御両親は喜びはしないんだよ?」
「じゃあ‥どうしたらいいの‥?僕はこれからどうして生きていけばいいの‥?」
これまで僕は両親の仇を打つ事だけを生きる糧として生き長らえて来たのに、その糧すら奪われてしまったら、僕はこれから何を希望(のぞみ)に生きて行けばいいの?
「ねぇ、教えてよ‥。僕はこれからどうすればいいの‥?」
雅紀さんなら分かるでしょ?
だって貴方はいつだって僕に道を示してくれた。
「ねぇ‥答えてよ‥!」
僕は遣りきれない思いをぶつけるように、雅紀さんの胸を何度も小ぶりで叩いた。
雅紀さんはそれでもじっと黙って、僕を胸に抱き、背中を摩ってくれた。
僕が落ち着きを取り戻すまで、片時も離れることなく、ずっと‥
それからどれだけの時間が経っただろうか‥
ぱたりと音を立てて木扉が開かれたかと思うと、そこに着替えを済ませた翔君が、両目を真っ赤に腫らして立っていた。