愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
智side
どうして澤があの男を‥?
何度思考を巡らせても一向に出ることのない答えに、僕は内心困惑していた。
僕が知り得る限りの澤は、時に厳しくもあったが、その心根はとても優しくて‥
それに暴君とも言える潤に対しても、驚く程従順で‥
その澤がどうして‥
澤はあの男を刺す程憎んでいた‥?
いや、そんな筈はない。
僕の知っている澤は、とても主に向かって刃を向けるような人には見えなかった。
分からない‥
僕は何度も首を捻っては、譫言のように「どうして‥」と繰り返し、今にも心臓を押し潰してしまいそうになる圧迫感だけが、僕の呼吸を荒くした。
そんな僕を見兼ねたのか、
「これを飲んで少し落ち着着ましょ?」
和也が僕の手に硝子の器を握らせた。
ともすれば手の中から滑り落ちてしまいそうになるのを、和也の手が支えて口元まで運ばれ、からからに渇いた口の中に冷たい水が流れ込んだ。
そして僕の隣にそっと腰を下ろすと、静かに僕の背中を撫でてくれた。
至って冷静に振舞ってはいるけど、僕の背中を摩るその手は微かに震えている。
和也だってさぞ驚いたろうに‥
それに恐ろしい思いだって‥
なのに僕を‥
でもそのおかげもあってか、僕は徐々に落ち着きを取り戻し、和也もそれが分かったのか、静かに僕の元を離れると、鍵のかかった木扉に向かって歩を進めた。
その時、外から木扉を叩く音がして、聞き覚えのある声が聞こえた。
意識は茫然としていても、聴覚だけはしっかりと機能している。
和也が急いで木扉を開けると、声の主は何の躊躇いもなく僕の前に立った。
僕はそれが雅紀さんだと確認すると、
「あの人は…どうなりましたか…?澤さんは…無事、なんですか…?」
矢継ぎ早に尋ねた。
すると雅紀さんは僕の前に膝を着き、焦点の定まりきらない僕の目をじっと見つめ、
「松本の父は亡くなった…。澤は…取り押さえられている」
苦渋に満ちた表情(かお)で言った。
遠くの方で、ひゅっと息を呑む音が聞こえた。
僕はといえば、そう言われたところで現実が受け止められず…
「あの男が…死んだ…」
落胆とも諦めとも区別のつかない息を漏らした。