愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
雅紀side
血で濡れた翔君を智たちがいる部屋に行かせることはできなくて、人払いをした私は、急ぎ彼の自室へと向かった。
和也は勿論のこと、智は相当混乱している筈だ。
自分が仇としていた松本の父を、目の前で澤が刺してしまったのだから。
私は智の叫びを聞いた。
『父様と母様の仇っ‥、死ねっ…!』
確かに彼はそう言った。
もしあの瞬間、澤が刃を向けなければ、智が本願を遂げていたことになっていただろう。
澤は何かに勘付いていたんだろうか…
私が物心ついた時から松本の屋敷には彼女がいた。
病に伏しておられた母親の代わりに、乳母のように松本や翔君の世話をし…
もしかすると、松本の父との間にも主従以上の関係があったのかもしれない。
松本はそのことを知っていた…?
だから…澤が凶行に及んだことにも、そこまで強い違和感を感じなかったんだろうか…?
だとすると…あまりにも哀しすぎる
私はそれぞれが胸の内に抱える苦しみに、押し潰されそうになった。
いけない…
今は感傷に浸っている時ではない…
私は辿り着いた木扉の前で大きく息を吸うと
「私だ…鍵を開けてくれるかい」
ゆっくりと硬いそれを叩いた。
すると微かな足音がして、かちりと錠を解く音がし、木扉の隙間から不安に怯えた恋人の顔が見えた。
「雅紀さん…、大丈夫ですか…?」
「ああ、私は大丈夫だ…、それより智の様子は?」
なかの様子を問うと、和也は身体を譲り、私を部屋の中へと招き入れた。
広間の騒めきの届かない静かな部屋の中、寝台に腰掛けていた智は、部屋に入ってきた私を見た途端
「あの人は…どうなりましたか…?澤さんは…無事、なんですか…?」
矢継ぎ早に問いを重ねて。
私はその足元に膝をつくと、
「松本の父は亡くなった…。澤は…取り押さえられている」
見てきたままを話した。
すると和也は息をのみ…
智は……
「あの男が…死んだ…」
と小さく息を吐いた。