愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
翔side
自分の身体が自分のものじゃないみたいに勝手に動きだす。
松本の人間として……
兄さんの言ったその言葉だけが、崩れそうになるおれの身体を支えていた。
目指す扉が開け放たれ、おれの歩みを止めるものは何一つなく、数人の使用人がその後に続いた。
言い付け通り、広間を出て着替えなければと、自室のある階段のある方へと足を向けると
「翔君、そのまま部屋に戻るのはよした方がいい」
背中に添えられた手の主が、それを止めた。
「ああ……」
そう言われて、初めて自分の身体が血で濡れていることを思い出した。
ねっとりと濡れた感覚の手のひらを見ると、赤褐色に染まっていて…
嗅いだことの無い大量の血の匂いが、自分の服から…身体から濃く立ち、途端に吐き気が込み上げてくる。
父様の…血……
「誰か、風呂場に案内してくれないか…?翔君の身体に付いた血を洗い流してやらねば」
ふっと彷徨いそうになった意識が、雅紀さんの冷静な声で引き戻される。
こんなことじゃだめだ…
「大丈夫、です…雅紀さん、誰か、和也に着替えを持ってくるよう…伝えて…」
そう言えば…和也はおろか、智の姿も見当たらない。
すると彼は微かに頷き
「では私が適当に見繕って和也に持たせよう。おまえたちは翔君の傍に付いていくように」
何か考えがあっての言葉を使用人たちに掛けると、おれの部屋の方へと歩いていった。
雅紀さんがいてくれてよかった…
もしかしたら彼が智を上手く匿ってくれているのかもしれない。
あの時…
智は小刀を…手にしていた
それを目にした時、智がどんな思いで兄さんの部屋に囚われていたか…はっきりとわかった。
智は…
親の仇を取る為に…この屋敷に留まっていたんだ
自分から全てを奪い、深い悲しみと絶望の底に叩き落とした父様に復讐をするために、屈辱に耐え、その機会をうかがっていた…
でも…よかった……
父様の命を奪ったのが
あなたじゃなくて…
ごめんね……澤………