愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
白い布を手にした使用人たちが駆け寄り、翔君が押さえている刺創の上へと被せていくけれども、すぐに真っ赤に染まってしまい、焼け石に水といった状態だった。
私たちは為す術もなく…
消え逝く命の灯火を見守ることしかできなかった。
「父様…どうして、こんなことに…なんで……」
松本はあまりにも突然に訪れた別れを受け入れられずに泣き縋る翔君の肩を抱き、
「これがこの男に相応しい…末路だったんだ…」
と静かに告げる。
「…どういう、ことなの…、父様が…何をしたっていうの…」
松本家の長子である彼は、父親の死は致し方無いと思っているのか…
だが、そこに隠された経緯を知らない翔君にそう告げるのは、あまりにも酷な話だろう。
「松本、兎に角…翔君を別の部屋へ連れて行こう」
翔君は血溜まりの中で、すでに息絶えた父親の身体を抱いたまま、立ち上がることさえできなくて。
松本がその肩を抱いた手で立ち上がらせようとするけれど
「いやだ…、父様が……」
その傍を離れようとはしない。
すると彼は泣き崩れかけた弟の耳元で
「おまえはもう子供じゃないだろう?自分の足で立つんだ。松本の人間として…その名をこれ以上汚すことのないよう、この広間を出るんだ」
彼だけに聞こえるように言うと、私を仰ぎ見
「俺は…後始末をしなきゃならない。悪いが、弟のことを頼む。」
それまでとは別人のように落ち着き払った声で、そう言った。
腹を据えたのか…
惨事に混乱するこの場を収めるのは自分しかいないという長子…いや、家長としての立場が、松本を一変させたようだった。
翔君も‥兄の言葉に従い、ゆっくりと立ち上がる。
もう…私の助けなど必要の無い足取りで。
「着替えて…きます…」
そう真っ直ぐに兄を見つめ返すと、ざわりと空気の揺れたなかを独りで歩いていった。