愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
雅紀side
扉を閉めると、すぐさま広間まで駆け戻る。
何が起きたというんだ…
あの従順な澤が、在ろう事か主人である松本の父を刺すだなんて、誰も考えもしなかっただろう。
それも選りに選って…今日…
あの場所で…
智の目の前で、彼の仇である松本の父を…
私が混乱する頭を抱えたまま広間に滑り込むと、突然の惨事に招待客たちは壁際に張り付いて動けなくなっている。
広く取り残された広間の中央では、血溜まりの中で蹲るように倒れている父親を抱き起し、その意識を呼び戻そうと叫ぶ翔君の姿があった。
松本はその傍に跪き、
「傷口を押さえる布を持ってこい!」
使用人たちの方に向かって大声で指図している。
あまりの惨劇に啜り泣きが聞こえ、呻きすら聞こえないその場には、誰もが恐ろしがって近づこうともしなかった。
私は人垣をかき分けて松本の傍まで駆け寄り
「どんな具合なんだ…?」
その肩越しに倒れている姿を見ると、どす黒く血で濡れた背中から尚も溢れ出る血をどうにか止めようと、翔君が必死になって押さえている。
でもその指の間からは止め処なく鮮血が流れ、とてもではないが医者は間に合いそうにない…そう感じた。
すると松本も同じことを感じているのか、厳しい表情で首を横に振ると
「これだけの深手だ…。助かりはすまい」
私と翔君だけに届くよう、小声で言った。
「そんな…っ、お医者様さえ来てくれたら父様は助かるんでしょ⁈」
「…翔……、わかるだろ、殆ど息をしてない…」
温もりだけが残り、風前の灯火となった父親の命を諦めきれない彼は、ぴくりとも動かない身体を揺すり
「父様、ね、目を開けてください…、父様、父様」
涙声になりながら、懸命に呼び掛けていた。