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私を愛したモノなど

第3章 2 暖かな黒の中で




この屋敷に来て、2日目の朝。まだ慣れない部屋のベッドで目が覚めても少しの間この柔らかな布団から出ないでいる。華やかさの中に柔らかさのある部屋の装飾をぼんやりと眺めてから、ゆっくりとベッドから抜け出て部屋に備え付けられた洗面所で顔を洗う。
鏡に写った私の顔は、何だか締まりのない顔をしていた。

簡単に肌を整えているとメイドさんが二人、部屋へ訪れてドレスに慣れていない私の着替えを手伝ってくれる。
思わずお礼を言うと、返ってくる優しい笑い声。

「フフ、そんなに緊張しないで下さいませ、アンリ御嬢様。」

何だか少しムズムズする、その呼び方。

「さぁ、朝食のお時間ですので、行きましょうか。」

すぐに連れられた部屋に行けばテーブルにはもう温かな朝食が並んでいる。
そして、私よりも早く来ていたハイデスさんが私に気が付くと側まで来てくれた。

「おはよう、アンリ……昨夜は良く眠れたかい?」

「はい、とても……。」

何だか、ぎこちない返事になってしまったけれど、どうしようもなかった。

気恥ずかしさと、照れくささ。
それにむず痒いような、でも嬉しい気持ち。

「楽にしていい、ここはもう君の家なのだから。」

私の頭を撫でる大きな手と、そんな私達を温かく見守る使用人の人達。

なんというか、くすぐったい。

私を見るハイデスさんの優しげな瞳も、窓から射し込む眩しい程に強い朝の光も。
今の私には擽ったくて仕方がないの。
夢のような時間はこの白く部屋を照らす朝日に溶けてしまいそうだと思った。

本当に、ずーっと夢の中にいるみたいで、本当は私はもっと別の場所で生きているんじゃ無いのかなとか、全部私が作り出した都合のいい世界なのかもしれないとか考えてしまうの。

忘れた記憶を思い出したいと思う反面、それが怖いとも感じる。
もし、思い出したくないような記憶だったら?思い出して後悔したら?

だったら、このまま、何も知らないままで過ごしていた方が幸せなんじゃないか、そんな事を考えてしまう。
そんな良くない方向へと進む思考もすぐに消えてしまいそうな程に温かな空気に、少しくすぐったくなりながら美味しそうに湯気の立つ食事へと手を伸ばした。
この後はハイデスさんは仕事で、私は相変わらず屋敷でゆっくりしていてくれと言われてしまったので、大人しくしていようと思う。
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