第3章 2 暖かな黒の中で
「いえ、まだ……何も……。」
自分に、何が出来るかだなんて分からない。
私には、一体何が出来るんだろう。
早く決めなきゃきっと迷惑だよね、いつまでも居座る訳にはいかないし……。
そう思って、握ったままの手に視線を落とす。
だから、私の答えに少し安心したような顔をしたハイデスさんに気がつけないでいた。
「そうか。ならば、ひとつの案なんだが……もし、行く先が無いのならば、私の元で暮らさないか?」
「……へ?」
思ってもみない言葉。
情けない声が出てしまったのはきっと仕方が無いと思うの。
「まぁ、明確には私の養子になるのが一番なのだが……それは強制はするつもりはない。だが、前向きに考えてもらえると嬉しい。」
真っ直ぐに私を見る瞳。
驚くよりも、何故そこまでしてもらえるのか、何故、この人は私の欲しいものをくれるのかそんな思いが私の頭の中を駆け巡る。
「私は君と出会えたことは何かの縁だと思っている……このまま、君を一人街へ行かせて何かあったとしたら私は絶対に後悔する。見ず知らずの男に突然こんな事を言われ、不安だろうがどうか信じて欲しい。私は君を不幸になどさせたりはしない。絶対にだ。」
「ハイデス、さん……」
あぁ、何だろう。
胸が痛い。
理由なんて、そんなの嬉しいからに決まっている。
嬉しくて、嘘みたいで、本当に苦しいくらい。
こんなに、自分の事を思ってくれる人がいるなんて。
どうして?だなんてそんな野暮なことは言える筈がない。
この瞳を、私は疑うことすらきっと出来ない。
もし、もしも騙されたのだとしたらそれでもいい。この言葉が、今その台詞を選んだこの人の気持ちが真実だと思いたい。そして、それが真実なら私はそれだけで幸せだろう。
流されてる?
そうかもしれない。
でも、それってダメなことかな?
例えダメだとしても、私はこの人を信じたい。
「……いいんですか、?」
頬を伝う涙が、落ちる前に長い指先で受け止められる。
「あぁ、勿論……勿論だよ。私に君を守らせて欲しいんだ、アンリ。」
ふわりと、爽やかな香りに身を包まれて抱き締められた事に気が付いた。
私の体を支える腕はがっしりしていて、体の全てを任せたくなってしまう。