第3章 2 暖かな黒の中で
窓の外が青から朱へ、そして黒へと変わっていくのを感じながら読み終えた本を膝に私は一人この先の事を考える。
帰る場所がないことは、何となくわかっている。
それ以上に覚えていない、等ではない。知らないことが多すぎるのだ。
私の中でまるで蓋をされているかのような其れ等とは違う世界では私は赤子も同然だった。
初めて見るものが多すぎて、まだふわふわしている。不安だとか、これからどうしよう等という気持ちよりもまるで夢の中にいるかのような感覚の方が勝っている。
無意識に窓の外をボーッと見詰めていると、控えめに扉ノックされ我に返る。
焦って扉を開くと目の前にはハイデスさんがいた。
「ハイデスさん、戻られたんですね。……えっと、どうか、しました?」
「あぁ、今しがた帰ったところだよ……実は少し、君と話をしたくてね。大丈夫かな?」
「え、あ……勿論、大丈夫です。」
ありがとう、そう言って微笑むハイデスさんは本当に然り気無く私の手を取ってソファへ連れていった。
だから勿論、隣に座ることになるのだけれどその距離が近くて無駄に緊張してしまう。
「、そんなに緊張しないでくれ……アンリ、私は君の手助けをしたい。」
「て、手助け……ですか?」
ぎゅ、と大きな手に握られてその節のある手が自分との力の差を示しているかのようで。
でも、恐怖やそういった類いの感情よりも、今こうして真っ直ぐに向けられる熱い視線にどうしてもドキドキしてしまう。
「も、もう十分助けて頂いています……こんな、どこの誰かもわからないような私に宿どころか食事まで頂いてしまって……、!!」
本当に、至れり尽くせりで申し訳ないほど。
普通に考えたら自分の名前しか知らないような女を保護するだなんて余程じゃなければ出来ないことだ。
でもハイデスさんは何でもないかのように言ってみせる。
「そんな事はない。私がそうしたかったからだ……気にしないでくれ。ところで君は、この先どうするか考えてはみたか?」
そう、私の今の問題はこれからどうするか、だ。
何か仕事を探せばやっていけるかな?
この世界で一人で生きていくことは可能だろうか。
考えてみようとしたところで不安だらけの問題に目を反らしていたが、やはり何時までもそう言っている訳にはいかないのだ。