第3章 2 暖かな黒の中で
「まぁまぁ、そう大きな声を出さないで下さい。……それでも、一騎士団を束ねる人間ですか?」
ルシスはやれやれといった様子で、思わず立ち上がった私を座るように促す。
興奮状態の気持ちをなんとか宥め座りなおすが、落ち着いてこの男の顔を見ることが出来ない自分にまた腹が立つ。
「っ、だが……その事はまだウチの人間以外知らない筈だ。」
「そうでしょうね。風の噂だとでも思っていてください。ですが今はそんなことは問題ではない。知っているといっても私も確信しているわけではないのですから。……彼女について分かったことを教えていただきたいのです。」
「何故です。彼女は私の家の前で意識を失っていたところを保護した。それだけの存在です。」
無意識に、口調が厳しくなる。
「……本当にそう御思いで?彼女がただの迷子の如く帰る場所が分からなくなっているのだと?陛下にはなんとご報告をするつもりで?」
「陛下にはまず貴族と思しき女性を保護した事、そして機会があれば天女が見つかった場合その処遇についてどうなさるおつもりなのかと……。」
「まぁ、上手くいけばそれでもいいでしょう。だが陛下もバカではない。それでは天女を見つけたと言っているようなものでは?」
返す言葉が見付からない。感情が先走っていることに、私は気が付いていなかったのだ。
「ともあれ、御前の可愛い天女が、本当に古の乙女なのかは確認してみないことにはどうしようもありませんし。ですが……その乙女が天女であり万が一バレた場合どうしようもありませんよ。」
「……天女かどうされるのか、知っているのですか?」
「いえ。陛下がどうなさるのかは私にはわかりません。ですが、警戒すべきは陛下だけではありませんからね。この国の中だけで保護出来たのならばそれで御の字なのですよ。」
言葉に詰まる。
私は、何を望んでいる?
見付けたばかりの彼女の存在を、まだ手放したくなかった。
彼女のことを知りたい。もっと色々な表情を、笑顔を、私に見せて欲しかったのだ。
本当ならば彼女が古の乙女なんて言うことなど、どうでもいい。寧ろそうでなければいいとすら願っている。
今、その症状が現れていないのならばどうにかしてこのまま今の彼女を安全に、静かに保護すればいい。
そうだ、誰にもバレないように、大切に仕舞い込んでしまえば、バレることなど無いのだから……
