第3章 2 暖かな黒の中で
「分かっていますよ。ですが、そんな彼女に朝から手を出している男に言われたくはありませんねぇ。」
「えっ、…うそっ、なんで…!」
さっきの事が、何故かルシスさんにバレている。青くなったり赤くなったりしながら慌てて二人の顔を見るとハイデスさんはルシスさんを睨んで固まっていて、そんなルシスさんは何食わぬ顔でハイデスさんを見ている。
「さっき言ったでしょう…貴女から酷く甘くて魅惑的な香りがする、と。」
腰に腕を回されて、首筋に鼻を寄せられる。
ハイデスさんが目の前にいるのにこんな、!と硬直する私に当のルシスさんは楽しそうだ。
「ですがハイデス、思ったより結界を解くのが早かったですね。これならば次は少し強力にしても良いでしょうね。」
「っ、次があってたまるか!アンリから離れてくれ!」
浮遊感を感じると、気が付けば今度はハイデスさんに抱き締められていた。
「全く本当にしようがない男ですねぇ……あんまり過保護過ぎると嫌われますよ?嫉妬深い男もね。」
「うるさい、本当にどの口が……アンリ、大丈夫かい?」
まだ抱き締められたままで、ルシスさんから離れたとて結局状況は変わっていない私は、朝から心臓が付いていけないと悲鳴を上げているようにも感じた。
「ほら、お前も彼女を離してやりなさい。混乱していますので。」
「え、あっ……す、すまない、アンリ…」
向かいのソファに座らされ、心配そうにハイデスさんが見てくるけど何だか目が回りそうだ。
「あの、…取り敢えず、大丈夫です…。」
何をもってして大丈夫なのか分からないが、取り敢えずは一人で座れてるから大丈夫だと言うことにしておく。
でも、何だかさっきの不安が消えなくて恐る恐るルシスさんの方を見た。
「えっと、…ルシス、さん、は……怖い人、ですか…?」
何て言ったら言いか分からなくて、変な言い方になってしまったら、一瞬呆気に取られた表情のルシスさんが、すぐに笑って見せた。
「怖い人、かもしれませんが…大丈夫、貴女に妙なことは致しません。ですが、気を付けることです。私が貴女には迷ったと言った事以外全て本当の事を言っていますが、貴女が部屋を出てからこの部屋まで全て結界で閉じ込めていたのも本当ですよ。」