第3章 2 暖かな黒の中で
※少々流血表現が御座います。苦手な方はご注意ください。
恐怖に震える私を嘲笑うかのように、馬車は大きな衝撃をうけた。その衝撃で、私は無理矢理外へ放り出される事になる。
地面に打ち付けられた体を何とか持ち上げ、そこで見たものは信じられないものだった。
目の前にはジェイドさんが先程聞こえていたバチバチと鳴る稲妻を放ち、何かと戦っている。
その何かが、私には分からなかった。
真っ白で、人間よりもふた回りほど大きなその体は人のようで、人でないなにか。首が長く、細く伸びた腕も人の比率から見ると倍程ある。下半身は、脚なのか、関節の無いだらりとした何かが何本も付いている。
そして何よりも目を引くのが、背中に背負った大きな対の羽だった。
羽ばたきながら空を舞う姿は一見美しいが、その隙間から触手のようなモノが見える。
顔は目がなく、口だけしかない。
美しさと、グロテスクを合わせたような、何とも形容しがたいそれ。
私は、真っ先に思い浮かんだものがあったが、それは私が思うものとはあまりにもかけ離れていた。
「…、これが、こんなのが天使だっていうの、?、」
痛みすら忘れ唖然とする私に、焦ったジェイドさんの声が届く。
「アンリ様!?早くここからはな、れ、…っ…」
ジェイドさんの声も虚しく、震える私の脚は動かない。
声も、出ない。
逸らされること無く、全てを見届けてしまった瞳に浮かんだのは疑いようの無い、恐怖と、絶望。
目の前で飛び散る赤と、途中から消えたジェイドさんの声が頭の中で何度も響いた。
どさりと音を立てて私のすぐそばへ転がったジェイドさんが、みるみるうちに血だまりを作っていく。
うそ、そんな、うそだ……何で??
手を伸ばそうにも、体がうまく動かない。
どうしてこんなことになった?
初めて見る光景に、これは現実なのかと私の思考がフリーズする。
私の淡いドレスに散った真っ赤な雫が、立ち込める血の匂いが、これは現実だと私を嘲笑う。
そんな私にさした影も、また同じだった。