第3章 2 暖かな黒の中で
「ほら、危ないだろう?馬車は揺れるのだから、しっかり座っていないと。」
どうすればいいか分からなくなっている私の耳元に、いやに色っぽい声色で呟くのはわざとなのだろうか。
それとも、私が変に意識してしまっているだけなのだろうか。
「だ、だって、ハイデスさんが……!」
「ん?私が……なんだって?」
耳元でクスクスと笑うこの人は、私が今どんな気持ちでいるのか知っていてやっているのだろうか?
ただ、支えられただけのこの腕の感触が昨夜の変な夢を思い起こさせてしまうだなんてことを、分かっているのだろうか。
もう耳まで真っ赤になった私を置いて、最後の頼みの綱であったジェイドさんは気が付けばもうこの空間にいない。
いつ?だとか、どうやって?だなんて考えている余裕も無かった。
「すまない、少し悪ふざけが過ぎたか。……でも、どうしたんだい?本当に……何か、私に言いにくいことでも?」
図星を突かれ、小さく跳ねる身体に気づかれたのではとひやひやする。
「そ、そんなわけでは……っ、」
「そうか、なら良いのだけれど……。無理はしないでおくれ。私は君が何よりも大切なのだから。」
体温が、吐息が……ハイデスさんが、近い。
馬の蹄が石畳を駆ける音がする。
あれ、ハイデスさんって、こんなにスキンシップ激しかった?
そう思うほど、ハイデスさんの触れる腕が執拗に感じてしまう。
さりげなく、太股に添えられた手に、ドキッとした。
体温が、じわりと上がるのを感じる。
「あ、あの……いつまで、こうしているのですか、?」
「……こうしていれば、余計なことは考えずに済むだろう?」
……え?どうして、その事を?
驚いたように、ハイデスさんを見ると、いつものように優しく笑いかけてくれる。
「朝から様子が変だから、何か悪い夢でも見たのかと思って、ね。」
そう言ったハイデスさんは、どこか不敵に笑ったように見えた。