第5章 【伊武崎峻】言えなかったこと
たぶん茜本人は気付いてないけど、蜂谷くんにはよく相談されるから知っている。
そして、それは茜にも言えることだ。
「んー、私はどっちでもいいよ」
本当は誘ってもらえて嬉しい癖に、素直になれない茜が可愛く思えたから、私は迷わずそう答えた。
「まじ!ぇ、じゃあ宮下もいいよな!?」
「ぇ、え〜……がそう言うなら、私も別にいいけど…」
お祭りの灯りに照らされてもわかるくらい、赤くなって照れている茜。
「よっしゃ!」
傍から見たら両思いだってバレバレなのに、案外本人達は気付かないらしい。
「……いいな」
ぼそりと口をついて出た言葉は、お祭りの喧騒に溶けて行った。
あれから木下くんと蜂谷くんもそれぞれ好きなものを買って来て、休憩用テントで四人で軽くごはんを食べた。
「花火まで時間あるけど、どこ行く?」
まだお腹が空いているらしい蜂谷くんは、さっき買ったイカ焼きを齧りながら言った。
「僕らここの祭り初めてだから、どこになにがあるとかよく知らないんだ」
前を歩く茜と蜂谷くんを追う形で私と木下くんが歩いているからか、必然的に木下くんと話すことが多くなっていた。
「神社の前の辺りに遊べる出店は固まってるかな」
「そうそう!神社の方が花火も見やすいんだよね〜」
私の言葉に反応した茜がこちらに顔を向け、私もそれに頷く。
「お!じゃあそっち行こうぜ」
「なんであんたが決めてんのよ」
目の前で繰り広げられるやり取りが痴話喧嘩にしか見えなくて、やっぱり少しの羨ましさを感じながら、間に入る言葉をつむぐ。
「まぁまぁ、どうせ行くつもりだったじゃん」
「そうなんだけどさぁ」
「なぁなぁ、宮下はなんが好き?」
二人並んで歩く姿を見ていると、どうしても昔の私と峻も…なんて想像をしてしまって、今隣に居ない峻のことを思う。
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