第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『私のお店の名前もね、』
『K?』
綾ちゃんの、夜だけのコーヒー屋
"K"の由来は、
息子…慶君、というらしい…の名前だって
言ってた。
俺は『コーヒーのK?』なんて
ボケた勘違いして笑ったっけ。
『そう。静がつけてくれたの。
大切な想いのこもった名前なら、
どんな時でもその名前に恥じないように
きっと頑張れるから、ってね。』
普通の恋愛ではなかったけど
結局、自分の道を貫いた母さん。
普通に結婚したけど、
結局、家族と離れた綾ちゃん。
『母さんは…これからどうすんのかな?
そうだよ、俺、進学してる場合?』
『お金のこと?それは心配ないみたいよ。
あのお店はもう、静のものになってるから
彼が亡くなったことは関係ないし。
…ただ、あとは静の気持ちよね。
別れたとはいっても
ビジネスパートナーとして見守っててくれた
彼の存在が気持ちの支えだったのは
間違いないだろうから…。』
『…ホントに、
ただのビジネスパートナーだったのかな?』
『男女の仲、ってこと?』
『まぁ、その、ほら、愛人、的な?』
『やぁねぇ、高校生なのに
母親のこと"愛人?"なんて(笑)』
綾ちゃんはケラケラ笑った。
『立ち入ったことはわからないけど…
仕事のことやいっちゃんのことは
今でも時々、相談や報告はしてたみたい。
やっぱり心の支えだったからこそ、
体調崩してたのを知らなかったこととか、
最後に何も伝えられなかったこととか、
そういうのがショックだったのかな。
…静に心配させたくない、っていう
彼の優しさだったんだと、私は思うけど。
普通の結婚で失敗しちゃった私より、
はるかに優しさや思いやりに満ちてて、
…幸せって、難しいね。』
最後は独り言みたいに呟く綾ちゃん。
きっと、母さんも覚悟してたはずだ。
いざというとき、
駆けつけられない間柄であることや、
人前では、
仕事の相手としてしか話せないこと。
そんなことは
最初からずっとずっとわかってて、
それでもこの生き方を選んだはずなのに、
やっぱり、
これほどショックなんだとしたら、
そばで
世話したり世話してもらったり、っていう
"家族"の役割するのは、
やっぱり俺、なんじゃないだろうか?