第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
ボーッと、倒れた母さんを見ていたら、
綾ちゃんは救急車より早くやって来た。
『静!』
と言いながら
廊下に倒れてる母さんに駆け寄って
呼吸と脈を確認すると、俺に言った。
『いっちゃん、静のことは心配しないで…
って言っても無理だろうけど、
とにかく行きなさい。』
『うん、でも、綾ちゃん、大丈夫?
その…母さんと、あれ以来さ…』
『あの日以来?
会ってないけど、大丈夫。
子供のケンカじゃないんだから。』
『俺、ホント、行っていいのかな?』
『当たり前でしょ。
静のためにも、行かなきゃダメよ。』
その時、救急隊が到着して
一気に空気が慌ただしくなった。
綾ちゃんはそっちにつきっきりになり
何も出来ない俺は、それを遠巻きに見守る。
担架に乗せられて家を出ていく母さんに
付き添う綾ちゃんを呼び止めた。
『綾ちゃん、これ。母さん、頼む。』
家の鍵を渡した。
…今、俺にとって、綾ちゃんは、
唯一頼れる、家族のような存在だ。
『鍵、預ける。自由に使って。』
『ありがとう。預かるわね。』
『…こんな時に頼って、ごめん。』
『こんな時に頼らなくて、いつ頼るの(笑)
心配しないで。
女の友情は、案外、頑丈なのよ。
中途半端な夫婦なんかより、よっぽどね。
いっちゃんこそ、しっかり。絶対、合格!』
俺の肩をポン、と叩いて、
救急隊の後を追いかけていく綾ちゃん。
不思議だ。
あんなに好きだったはずの綾ちゃんが、
"女"じゃなくて"母さんの親友"にしか
見えなかった。
いや、"女性"なんだけど。
俺が追いかけてた人、じゃなくて
頼りになる、
"大人"にしか見えなかったんだ。
あぁ、綾ちゃん、立ち直ったんだな。
自分の心の傷を嘆くより、
俺との内緒の時間に溺れるより、
誰かのために行動できる強さを
ちゃんと取り戻したんだ、
…って、なんとなく、わかった。
スッキリした気持ちで、荷物を持つ。
母さん。
結果論だけど、
母さんが、体はって、
俺と綾ちゃんをキチンと終わらせて、
それぞれの本当の姿に
引き戻してくれたような気がするよ。
俺、絶対、合格してくる。
この母さんと、
…あの父さんの息子、だもんな。