第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
ヴーッ…
ヴーッ…
スマホの、バイブレーションモードの
小さな振動音。
誰でもいい、
助けてくれ!
そんな気持ちで
弾かれたようにその場から立ち上がり、
音の源を探す。
俺のじゃ、ない。
母さんのカバンの中から
音が聞こえてることに気付き、
急いで取り出したスマホには、
綾ちゃんの名前が表示されていた。
迷わず、とる。
『もしもし、静?』
『綾ちゃん!』
『いっちゃん?!静、いる?』
『今、廊下で、倒れた。』
『え?!』
『なんか、その直前まで元気だったのに
新聞見た途端、バタッ、て。』
『私も今、ニュースで見て…
いっちゃん、もう学校行く時間でしょ?』
『いや、学校じゃないから、
あと30分はいられるけど、でも…』
『学校、休み?』
『俺、明日、第一志望の受験だから
今日、こっち出る予定で…』
『えっ?!』
『でも、受験とかいってる場合じゃ…』
『いっちゃん、』
今までで
聞いたことないくらいキリッとした
綾ちゃんの声。
電話の向こうで、ガサガサ音がする。
動き回りながら話してるらしい。
『いっちゃん、まず救急車呼んで。
頭、打ってるといけないから、
無駄に動かしちゃダメよ。
私、10分でそっち行くから、
後のことは私に任せて、
いっちゃんは自分の準備、しなさい。』
『でも…』
『すぐ行くから。まず救急車!切るわよ!』
プー、プー、プー、プー…
プッツリと切れたスマホを見つめ、
それから震える指で119を押した。
生まれて初めて救急車を呼び、
通話を切って静かになった部屋で、
どうすることもできずうろうろしながら
ふと、思った。
綾ちゃん。
『ニュースを見てすぐに電話した』
って言ってた。
…ということは、
やっぱりあの訃報は、
俺の父親で、
母さんの大切な人ってことで、
綾ちゃんはそれを知ってる、
数少ない人だということ。
それは間違いないんだな…