第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
バッタリと倒れた母さんの姿。
そのまわりに散らばった新聞。
おそらく倒れた瞬間に
母さんが見ていたらしい経済紙の一面が
大きく開いたままになっていて、
そこには、
大きな会社の社長だか会長だかの
訃報が載っていた。
その人は、
政治や経済にあんまり興味がない俺でも
ニュースとかで見たことはあって、
名字と顔は知っていたけど、
下の名前は、今、初めて、知った。
…名前に、"一"の字がついていた。
もしかして、
俺の名前は、
その人と母さんの名前から
一文字づつ、もらったのかな?
…ってことは、
この人、もしかして、俺の父親?
へぇ、すげぇなぁ。
あまりにも予想外のことに直面して、
俺も軽くパニクってたのかもしれない。
ふと、我に返る。
いや、ちょ、待て。
それより何より、今は、
『か、母さん?!母さん!!』
第一志望の受験に出発しようという朝、
母親が倒れた。
どうも、誰にも秘密の俺の父親の
突然の訃報に驚いて気を失ったらしい。
…ってことは、わかるけど。
わかるけど。
どうしよう。
どうしよう。
困ったときにいつも助けてくれる
"外の家族"に頼っていいものだろうか?
母さんの秘密。
俺、守らなくちゃいけねーんじゃねーか?
…何で、今、今日なんだよ?!
いや、てか俺、
受験してる場合じゃなくね?
さっきまで
"ウザい"とか"うるさいなぁ"とか
"早く独り暮らししたい"なんて
思っていたというのに、
今、俺は、泣きそうだった。
母さんに何かあったら、
俺、どーなるんだ?
一人じゃなんも出来ねぇじゃん!
『母さん、なぁ、母さんってば!』
真っ白になった俺の頭のなかに、
小さな音が、聞こえた。