第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
それは、ただの朝ではなく、
俺が第一志望の受験に出発する、という
特別な朝だった。
『一静、忘れ物、ない?
…朝御飯、しっかり食べてよ。
あ、でも食べ過ぎてお腹痛くなったら
いけないから、ちゃんとトイレも…』
『大丈夫だって。
だいたい、今日は移動するだけだし。』
『ホテル、迷わず行ける?
それより明日よね、明日。
ホテルから受験会場までの道。
迷って遅刻なんかしたら大変よ!』
『そのために一日早く行くんだろ。
ちゃんとスマホでナビって
今日のうちに確認しとくから。』
朝から、母さんの方がそわそわしてる。
『明日、朝、起きられる?
モーニングコールしようか?
それより何より、受験票!入れた?』
『大丈夫だって!』
『あぁ、やっぱりついていこうかしら。』
『やめろよ。まじ、ウザイ。』
…わけもなくウロウロしながら
俺におかわりの味噌汁をついだ後、
『あ、そうだ、
新聞、目を通して行きなさいね。
小論文とかの役にたつかもだし。
もう揃ってるかしら…取ってくるわ。』
うちは、母さんの仕事柄?
新聞は地元紙、全国紙、経済紙とか
五紙くらいとっている。
マンションの一階にある郵便受けに
母さんが新聞を取りに行って、
やっと静かになった。
…ふぅ。
母さん、こんなに過保護だったっけ?
綾ちゃんの一件からこっち、
"普通"でいるために
結構、気を遣ってきたけど、
この受験に合格できたら、それも終わり。
晴れて独り暮らしが出来る。
そのためにも、この受験、頑張ろう。
『…ぁぁ、家の中はやっぱあったかい!
ねぇ一静、外は寒いわよ~、
カイロ、多目に持っていきなさいね。』
玄関のドアが開くと同時に、
また母さんの声が響く。
賑やか、というより、うるさい。
『どれどれ、今日の一面は…』
近づいてくるスリッパの足音とともに、
新聞を開くガサガサという音。
…
…
…今日の一面、なんだよ?
さっきまで
あんなにうるさかった母さんの声が
パッタリと聞こえなくなって、
そして
ドサリ、という、低い音。
『母さん?今日の一面、なんだよ?』
…何、見てるんだ?
面倒くさいけど、
箸を置いて立ち上がる。
『母さん?一面、な…』
玄関からリビングに続いてる
廊下のドアを開くと、