第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
綾ちゃんの部屋は、真っ暗。
まだ帰ってきてないみたいだ。
もちろん、待つ。
そのつもりで来たから。
だけど、
1月の仙台。しかも、夜。
覚悟はしてたけど、
結構、いや、かなり、寒い。
寒さなんか、平気だ。
寒い中、待つからいいんだ。
寒くても平気なくらい、好きなんだ。
…と思っているのに、
体は全然、そうじゃないらしく、
『さむっ…』
足の先。
手の先。
鼻の頭。
耳の端。
首筋も。
みるみる冷えてくる。
このままいたら、間違いなく風邪引く…
しかも。
『ヤバ…』
トイレ。
さっき、
ドリンクバー、たっぷり飲んだから(涙)
くぅっ、なかなか
ドラマみたいにうまくはいかねーなぁ…
とりあえず、
近くのコンビニでトイレ行って
しばらく暇潰して、
それからもう1度、来てみよう。
まったなしの尿意に負けて
くるりと振り返ったその時、
『いっちゃん?!』
廊下の角から現れた、綾ちゃん。
『どうしたの?!』
いや、どうもこうも。
話せば長くなるけど。
『トイレ貸して!』
ビックリ顔の綾ちゃんも、
俺の尋常でない足踏みに、
切羽詰まった満水状態(笑)は
察してくれたらしい。
『え?あ、はいはい、』
あわてて鍵を開けてくれる。
『おじゃま、しまーす!』
言い終わった頃にはもう、
俺はトイレの中にいて、
ブルブルっと何度か身震いしながら
気持ちよく、たっぷりと放水した。
『はぁ…マジ、助かったぁ…』
手を洗ってトイレを出ると、
綾ちゃんは、台所で
ヤカンを火にかけている。
振り返って、こっちを見て。
『いっちゃん、唇、真っ青!』
…両手で俺の頬を挟む。
『冷めたい!
まさか、ずっと待ってたの?』
その一言で、ハッと我に返る。
俺、家出してきたんだ。
そして、この反応からすると、
綾ちゃんは、
俺の家出の原因を、知らない。
つまり、
母さんは、綾ちゃんに
何も…ゆうべのこと…言ってないらしい。
どうしよう。
何から話そう。
どうやって話そう。
『とりあえず、ストーブ当たってて。』
台所で綾ちゃんが
お湯を注いでるマグカップが見える。
俺がクリスマスにあげたヤツだ。
…こんな時なのに、
ちょっと嬉しい気持ちになった。