第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『…なんで、俺に渡すわけ?
母さんが綾ちゃんに渡してよ。』
『あたしに預けたら
腹立ち紛れに捨てちゃうかもよ?』
『でも、こんなん、俺に持たせたら、
また俺、綾ちゃんとこ行くよ?』
ふふふ…
余裕のある態度。ホント、腹立つ。
『会わなくても、郵送とか、
直接、綾の家のポストに入れても
かまわないんじゃない?
…でもまぁ、会うわよね。
きっとその口実作るために
あなたが勝手に領収とったんでしょ?
綾が一静に、領収書もらってきて、
なんて頼むわけ、ないもの。』
何もかも見透かされてる。
もう、やけくその気分で
母さんの手から領収書を奪い取った。
『母さん、今、
会っていい、って、言ったよな?
後から文句言うの、ナシだから!』
『ええ、もちろんよ。
…あらヤダ、もうこんな時間!
一静、早く学校行く準備して。
時間ないから、今朝はパンね。
お昼は学食にしてくれる?』
こんな時でも、
一瞬で日常モードに切り替えてくる、
その鋼のメンタル…マジ、ムカつく。
結局、そのまま黙って朝飯を食って、
黙って学校に行った。
授業なんか全然頭に入らなくて、
『これからどうしよう』って
そればっかり、考えながら。
これから、どうしよう。
俺は、どうしたいんだっけ?
綾ちゃんは、どう言うだろう?
思った以上に、考えがまとまらない。
母さんに知られた以上、
もう、秘密にする必要はないわけで、
堂々とつきあえるような気がするけど、
多分、綾ちゃんとしては
それだけでは片付かないことも
たくさんあるような気もする。
俺が一生懸命、口説いたら、
何とか、心を動かせるだろうか?
家族を手離して
1人で頑張る綾ちゃんを
もう、1人にしない、って。
俺が、家族になるよ、って。
そう言ったら、
喜んでくれないだろうか?
どうしたらいいかわからないまま、
とりあえず、その日、俺は、
カバンに荷物を詰めて、家を出た。
荷物、っていっても、
少しの着替え、洗面道具、スマホと充電器。
…驚くほど、コンパクト。
これなら、どこへでも行けそうだ。
そう思いながら、家を出る。
閉まる玄関のドアの音が、
やけに大きく聞こえた。
俺、もう、
ここに帰ってくることはないのかな…