第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『じゃ、なんでこそこそ会うのよ。』
う…。
『偶然会ってたまたまご飯食べたなら、
堂々とそう言えばいいじゃない。
…言えないことがあるから
黙ってこそこそ会ってたんじゃないの?』
その通りすぎて、言葉に詰まる。
『最近、綾の家に寄った時、
彼でも出来たのかな、って思ったのよ。
食器とか、ペアのものが増えてたし、
部屋に花が飾ってあったりしたから。
前向きになれたなら、よかった、って
私も心の中で喜んでたくらいなのに。』
『…それならそれで、いいじゃん。』
『自分の息子が相手じゃ、話は別!』
全て、母さんの想像。
あくまでも、証拠はない。
認めたら、終わり。
押し通すしかない。
『たまに飯食いに行っただけじゃん。
内緒にしてたわけじゃなくて、
わざわざ言うほどのこともないから
言わなかっただけだし。
勝手にあれこれ想像して
勝手に怒んの、やめてくんねーかな?』
『百歩譲って、
あんたは食事目当てだったとしても、』
びっくりして、
思わず母さんの顔をまじまじと見る。
…母さんに"あんた"って呼ばれたの、
多分、初めてだ。
どんな時でも
"一静"って呼んでくれてたのに。
母さんの怒りが伝わってくる。
『綾は、気持ちのどっかで
女としてあんたに接してたはずよ。
…だって綾、
最近、キレイになったもの。』
一瞬、不思議な感情になる。
嬉しい。
綾ちゃんが、
女性の目から見てもキレイになったのが
俺と過ごしたからだったとしたら。
それって、俺、
男として、なんか、誇らしいじゃん。
そんな気持ちが、
却って、俺の態度に出てしまって。
『…違うなら違うって、否定しなさいよ。』
母さんのその言葉に、
俺は、あり得ない返事を、
…最低最悪の返事を…してしまった。
『母さんこそ、偉そうなこと、言える?
そもそも毎晩毎晩、
親が家にいないのが悪いんじゃねーの?
それも、結婚してくれなかった相手に
慰謝料がわりみたいにもらった店で。
タクシーの運転手まで手玉にとってさ。
パートしながらでも
ちゃんと自分の力だけで店やってる
綾ちゃんの方がずっと偉いだろ。』
…次々言葉が出てくることに、
自分でも、ビックリした。
知らなかった。
俺、心の底で、
そんなこと思ってたんだな…