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~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)



お釣りを受け取って財布に入れたり、
領収書を頼んだりしたほんのわずかな間、

俺の意識は自分の手元に集中してて、

後ろにもう一台、
タクシーが停まったことに
全然、気付かなかった。

"コン、コン"

タクシーの運転席の窓をノックする音。

運転手がふと顔をあげ、
そして、すぐに窓を開けた。
窓の外から聞こえてきたのは
運転手に話しかける楽しそうな声。

『やっぱり泉田さん!こんばんわ。』

その声が聞こえた瞬間、
俺の全てがフリーズした。
…いや、大げさではなく、マジで
心臓まで止まった気がしたし…


運転席の窓の向こうに見える、帯と着物。
シックな色だけど華やかな、
…俺も見たことのある、そのデザイン。

一方、名前を呼ばれて
やけに嬉しそうな声で答える、運転手。

『おぉ、静ママ!今、帰りですか?』

やっぱり。
顔は、見えないけど、
聞こえてくるその声は間違いなく、


俺の母親の声。


『そう。今日は大高さんの車だったわ。
まさか泉田さんもここにいるなんて、偶然!
あら、そういえば泉田さん、この間、奥様が
風邪ひいたっておっしゃってたわよね?
その後、お加減、いかがです?』

…自分の顔が青ざめるのが、わかる。

毎日、タクシーで店と家を行き来する母。
タクシーの運転手にも、
顔馴染みが多いに違いない。

一刻も早く、ここを逃げ出さないと。
母さんが運転手と話してる間に、
エレベーターに乗り込んでしまえたら…

ガチャガチャ、と
自分でドアを開けて降りようとしたけど、

あ、あれ?
タクシーのドアって、
内側からは開けられない?

『あ、お客さん、すんません、領収書、すぐ…』

『いや、もう、領収書、いらないから
ここ、開けてもらえま…』

小さい声で話したつもりだったけど、
夜の静けさの中では
…ましてや毎日聞いてる息子の声…
充分、耳に届いたようで。

見えていた着物と帯がグッと下がり、
そこに現れた華やいだ笑顔が
一瞬、無表情になったのを、
俺は、見てしまった。


びっくり、とかなら、まだいい。
怒られる、とかでも、まだマシ。


無表情、だ。
その一瞬に、どんだけのことが
母親の頭の中で行き来しただろう…と

想像しただけでもゾッとする。


急いで帰って来たばかりだけど、
このままタクシーぶっ飛ばして
どっかに隠れてしまいたいよ…

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