第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
大通りを曲がるとき、
タクシーの窓からマンションを見上げる。
うちが、見える。
下からでもすぐわかる、10階の、角部屋。
…電気、ついてない。
よかった。母さんより先に着いた。
心底、ホッとして、
その瞬間、なぜか勝ったような気がした。
誰に?
…母さんに、とか
綾ちゃんに、とかいうより、
この恋は、まだ続けていいんだ、
バレーでいうところの"流れ"というか、
時の運?!みたいなものが、
味方についてるから大丈夫、みたいな、
なんの根拠もないけど、
"このまま、いける"みたいな。
間もなくタクシーは
玄関アプローチに静かに滑り込み、
ハザードランプをつけて、停まる。
ポケットに入ってる、
綾ちゃんからもらった千円札を
取り出しかけて、止めた。
…自分で、払おう。
このお金は、今度会うときに、返す。
なんか、いくらタクシー代でも、
金、もらうの、やだ。
飯、食わせてもらって
タクシー代まで出してもらう、なんて、
なんか、ヒモみたいだし。
あ、そうだ、
綾ちゃんは、いらないって言ったけど
領収書、もらっとこう。
『すみません、領収書、下さい。』
『あ、領収書、いるんですね、
えーと、ちょっと待ってて下さいね、
先に、はい、お釣りから…』
こういうこと、ちゃんとして、
少しでも綾ちゃんに
誉めてもらいたい…というか、
ガキじゃない、って思って欲しい。
…なーんて
背伸びしたがることが既に
思い切りガキなんだって、
なんであの時、
綾ちゃんの言った通り、
領収なんかとってねーで、
1秒でも早く帰ろうとしなかったのかって
…後になって、
どんだけ後悔したことか。
大人のいうこと、素直に聞いてたら、
あの後の展開は、違ったんだろうか。
…考えたって、しょーがねぇけど。
あの数分が全ての分かれ目だったって、
今なら、わかるんだけど。