第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『…ゃん、いっちゃん!』
『…んー?』
寝返りをうつと、
布団の肩先から冷たい空気。
体を小さく丸める。
『いっちゃん、起きて!』
バサッ。
布団をはがされて
ハッと意識が冴える。
『ごめん、私まで眠っちゃった…早く着替えて!』
年末年始の疲れ。
やっと会えた気持ちの緩み。
久しぶりのセックス。
寒い季節の人肌と布団のぬくもり。
そんなものが重なって、
ついうっかり、
二人揃って眠り込んでしまったようだ。
脱ぎ捨てた下着や服をかき集め、
あわてて着ながら綾ちゃんに聞く。
『…今、何時?』
『四時半!』
え?!
『タクシー呼ぶから、早く着がえて!』
まずい。
『母さんが帰ってくるのって…』
俺はいつも寝てる時間だけど、
『5時くらいのことが多いわ。』
綾ちゃんはうちにいた時、
母さんと同じ部屋を使ってたから
俺より、詳しい。
『やべぇ…』
間に合うか?
バタバタと玄関に向かう俺に、
綾ちゃんは、
ポケットにタクシー代をねじ込みながら
強い声で言う。
『もし間に合わなかったら、
うっかりコタツで眠ったことにするのよ。』
靴を履きながら、答える。
『綾ちゃんに会ってたなんて
母さんに分かるわけねぇんだから。
及川んちにいたことにすれば大丈夫だって。
…タクシー、領収書とっとくからさ、また…』
『領収書なんかいいから、
静より1秒でも早く帰るのよ!』
背中を押し出されるように
玄関から外に出される。
冷たい風に消えてしまいそうな
綾ちゃんの声が聞こえた。
『いっちゃん、ごめんね。』
…また、謝らせてしまった。
何か言いたかったけど、
そのまま、玄関ドアはバタンと閉まる。
『…』
下にタクシーの停まる気配がしたから、
とりあえず、俺も階段をかけ降りた。
とにかく、
母さんより1秒でも早く帰って
あとはベットに潜り込んでしまえばいい。
たまたま、
たった1回、寝過ごしただけ。
そもそも、
綾ちゃんちにいたなんて
母さん、思いもしないはずだから。
『だーいじょぶだって。
綾ちゃん、心配しすぎ。』
自分に言い聞かせるように呟きながら、
それでも、
タクシーが赤信号で止まるたび、
自分の心臓の音が聞こえる気がした。