第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
お節もお年玉もどうでもいいんだけど
(いや、正直言うと、
お年玉は、ちょっと捨てがたいか…)
『はい、冬補習の初日、
気合いいれていってらっしゃい!』
弁当を渡されてそう言われてしまうと
もう、それ以上の言い訳は出来なくて。
とりあえずその場は引き下がり
あれこれ頭を悩ませ、
学校で及川にも相談した結果、
結局、サプライズを諦めて
母さんから誘われたら断ってもらおうと
綾ちゃんに直接電話した。
…仕事中のはずの綾ちゃんは
やっぱり電話には出なくて、
留守電にメッセージを残して電話を切る。
返事がいつくるか、と
ずっとずっとスマホから目を離せなくて、
その日は結局、晩飯も1人で家で食って、
だけどなかなか返事はこなくて、
…待ってる時間って、やたら長くて
やたらゆっくり過ぎる気がする…
その夜は、
スマホを握りしめたまま寝落ちして…
翌日の朝、ハッと目を覚まして
スマホを見ると、
綾ちゃんからメールがきてた。
あわててタップすると、
きっと綾ちゃんなりに
気を遣った答えが返ってきてた。
"いっちゃんの誘いも、
静の気遣いも、本当に嬉しい。
どうもありがとう。
どちらとも一緒に過ごしたいし、
3人一緒に過ごしたい気もするけど、
今年は私、東京に戻ろうと思って。
お年玉を渡す名目でも作って、
少しでも慶に会ってきます。
いっちゃんも、卒業前だから、
友達と過ごすだけじゃなくて
静のそばにいられる時間、
大事にしてあげてね。"
…俺のことも母さんのことも
どっちも裏切らないためには、
それが1番いいことなんだ、って
確かに、そうだと思う。
そうなんだろうけど、
ズルい、とも思ってしまう。
分別のある大人の判断じゃなくて、
もっと、ムチャしていいじゃん。
二人で年越し、なんて
滅多にないことなんだから、
キレイゴトじゃなくて
"今"を最優先したっていいじゃん。
…俺と寝ておきながら、
いざとなったら無難な選択をする
綾ちゃんのことを
ちょっと恨めしく思ったりしたのは、
その頃の俺の若気の至りだったこと。
よく綾ちゃんが言ってた
"私達はつきあってるわけじゃない"
…ということなんだ、ということを
後になって、
俺も気づくことになるんだけど。