第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『綾ちゃん、これ、何?』
寒さも本格的になってきた。
綾ちゃんの部屋に行き始めた頃は
まだ冷たいコーラがうまかったし、
部屋の窓もあいてたから
イチャつく時、声を気にしたりしてたけど
最近は晩飯が鍋料理だったり、
飲み物もあったかいほうじ茶だったりする。
窓も閉まってることが多いし、
俺の家にはないコタツがここにはあるし、
いつの間にか、
俺専用の箸や茶碗やコップや湯飲みも増えて、
ここに、俺の居場所がある、っていう
家族的なあったかさを実感できるのが、
すっかり居心地よくなってきていた。
そんなある日、見つけたもの。
部屋のなかに干してあった洗濯物に、
見慣れないエプロン。
『綾ちゃん、これ、何?』
料理中の綾ちゃん。
台所から声が返ってくる。
『え?これって、なんのこと?』
『このエプロン。"もぐもぐ亭"って、
あの、唐揚げがうまい弁当屋?』
『そうそう、いっちゃん、知ってるの?』
『そりゃ、知ってるよ。
ここ、同じ金額で大盛にしてくれるから、
ここの唐揚げタルタル弁当、
よく試合の時に頼んでたんだ…って、
いやそうじゃなくて。
なんでもぐもぐ亭のエプロンがここにあんの?』
『え?あたしがもぐもぐ亭で働いてるから。
今日、エプロン汚しちゃったから
今夜中に洗って乾かそうと思って。』
『え?綾ちゃん、昼も働いてんの?』
『うん。いっちゃん、知らなかったっけ?
…出来た、ね、これ、運んでくれる?』
『わ、うまそーじゃん!』
『ご飯、3合炊いてあるから。
豚汁もおかわりあるよ。たくさん食べて!』
今夜のメニューは、
キノコと鶏肉がたっぷりの炊き込みご飯。
野菜もたっぷりの豚汁。
ナスと鮭の南蛮漬け。
カボチャとゆで卵のサラダ。
『いただきます!』
…綾ちゃんの作るメシを前にしたら
とりあえず、食わずにはいられない。
しばらくは食欲に身を任せて
まず、食べる。
綾ちゃんはそんな俺の姿を
いつものようにニコニコ見ながら
おかわりをよそったりしてくれて、
週に一度の楽しみな晩飯タイムを
いつものように過ごし、
いつものように並んで後片付けをしている時に
思い出した。
『そうだ、もぐもぐ亭。
…綾ちゃん、昼間も働いてんの?』