第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
綾ちゃんの腕が
俺を抱き締め返してくれる。
俺よりずっと小柄の綾ちゃん。
背中、というより腰に近いところを
ギュッと。
その手が、今度は柔らかく動く。
子供をあやすみたいに、
優しく撫でるように。
『別れちゃったの、残念だけど…
まだ17歳だもんね。
これからもたくさん、恋、出来るわよ。
いっちゃん、いい男だから。』
そんな慰め、全然、いらない。
恋なら、もう、してるから。
『じゃあ、俺の気持ち、
綾ちゃんが受け止めてよ。』
『…』
背中で優しく動いていた手が、止まる。
その分、俺の腕が、
きつく綾ちゃんを抱き締める。
俺、逃げないし、
綾ちゃんを、逃がさない。
今、気持ちをぶつけなかったら、
もう、次はないってわかるから。
『俺、綾ちゃんのこと、好きだ。
年上とか、母さんの友達とか、そういうの
どうでもいいくらい気になって仕方ない。』
…ダメよ、って言われるかな、とか
腕から抜け出そうとするかな、とか
予想してたけど、そうは、ならなかった。
クッタリ、と、俺の腕の中で
綾ちゃんの体から
力が抜けたのがわかる。
『…やっぱり俺のこと、
息子みたいにしか思えない?』
『…ううん。どっちかって言ったら、
そう思えないから驚いてる。
息子みたいな存在のはずなのに、
びっくりするくらいちゃんとした
男の人に成長してて…』
それって、それってさ、
『綾ちゃんも、俺のこと、好きってこと?』
俺の腕の中で、
綾ちゃんがすごく戸惑っているのがわかる。
『…傷つけたら、ごめんね。
私、いっちゃんのことを、
きっとこの先も、好きにはならない。』
拒否。
でも、俺も、
ここで引くわけにはいかない。
『…じゃ、俺のこと、嫌いなんだ?』
今度はすぐ、返事がくる。
『嫌いなわけ、ないじゃない。』
『好きでも嫌いでもなければ、何?』
『…なん、だろ?…』
好き、と
嫌い、の間の言葉。
俺もあれこれ考えてみたけど
確かに思い浮かばなくて。
別に、好きって言ってもらえなくてもいい。
そもそも、そんなの無理だってわかってる。
友達の息子を好きだ、なんて、
口にさせること自体、
綾ちゃんには残酷なことだろ。
『じゃあさ、』