第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『彼女って、あの子よね?
あのほら、お弁当の彼女。』
『そう。』
『…一生懸命で、元気で、
かわいい子だった印象だけど…』
『だね。』
『…この間、いっちゃんがここにいる時に
ラインしてきた子、よね?』
『うん。』
『…まさか、あの時のことが原因?』
『違う。全然、違う。』
『じゃあ、どうして…』
『同級の男子に告られたんだって。
そいつ、結構、アツい、いいヤツで。
俺、受験とか部活で
あんまり一緒にいられなかったし、
この性格だから、
人前でベタベタしたりとかしないし、
…俺が言うことじゃないけどさ、
確かに、俺といるより、そいつといた方が
楽しいと思うから。』
『…黙ってフラれてあげたの?』
『うん。』
『いっちゃんらしい、というか…
潔すぎじゃない?いいの?』
『…いい。』
いいんだ。
むしろ、そうなることを望んでた、
…とは、さすがに口にしないけど。
『それを綾ちゃんに聞いてほしくて…
来るなって言われてたけど、
怒られる覚悟で来ちゃったんだけどさ。』
『そしたら、酔っ払いが帰ってきた、と。』
『うん。で、そうめん食って、今に至る(笑)』
『ごめんね、そんな日に、
酔っ払いの世話なんか、させちゃって。』
『そんなの、全然、いいけど。』
『…明日から、寂しいんじゃない?
お弁当食べるときとか、帰り道とか。』
『どうだろ?
明日になってみないとわかんねー。』
『…寂しいと思うなぁ。
大事な人が、
自分の知らないところで楽しんでるかも、
なんて、考えただけでも寂しくない?』
…綾ちゃんの言う"大事な人"は
俺じゃなく息子って、わかってる。
『綾ちゃん、寂しいんだ?』
『あたしのは、しょうがないから。
自分で決めたことの結果だもんね。』
自分に言い聞かせるように
諦めを飲み込む綾ちゃん。
今、動かなかったら、
今度こそ、及川にバカにされるな…
『綾ちゃん、』
…ギュッと抱き寄せて。
『ちょっとの間でいいから、俺のそばにいてよ。』
『いっちゃん…寂しいの?』
『…うん。』
それは、嘘じゃない。
彼女と別れたから、じゃなくて、
綾ちゃんが、
目の前で"寂しい"って言ってるから。
…そんなこと、言えないけど。