第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『あのさ、弁当のお礼に、
今日、一緒に晩飯、食いに行こうか?』
彼女の顔がパッとほころぶ。
『…え、いいの?』
『だって、朝早くから頑張ってくれたんだろ?
お礼、お礼。』
『ホント?嬉しい!』
『でも、部活の後だから七時過ぎとかなるけど。』
『いい、行く!行きたい!』
『じゃ、決まり。
親に、晩飯いらない、ちょっと遅くなるって
ちゃんと連絡しとけよ?』
『うん!』
『親がダメつったら、ダメだぞ?
そん時はまたいつか、昼、行ける時…』
『大丈夫!ちゃんと言う!』
『おぅ。じゃ、』
『ねぇ、センパイ、』
『ぁん?』
『だぁい好きっ!』
こっちがテレてしまう位の笑顔。
表情も仕草も、はずんでる。
何のかげりもない嬉しそうな顔が
一瞬、俺の胸に刺さった。
…昨日の綾ちゃんとのキスは、
"もらい事故"だから。
もう、あんなこと、しないし。
ちゃんと彼女のこと、大事にしてるし。
自分にそれを言い聞かせるように
返事する。
『俺も、好きだよ。』
及川に聞かれたら、絶対、
ネタにしておちょくられそうな
リア充コメントのやりとり。
ついでに、
人目がないのを確認して軽くハグ。
そのまま頭をポンポンして。
『じゃ、後でな。』
『はーい!あぁ、楽しみすぎるっ。
午後の授業、早く終われ~っ!』
何度も振り返って手を振りながら
飛び跳ねるように戻っていく彼女。
動きの一つ一つ、
言葉の一つ一つ、
表情の一つ一つが、
ボールのように弾けてて、
"眩しい"っていうか
"純粋"っていうか、
かわいいなぁ、と思うし、
幸せそうだなぁ、と思う。
…みんな、1度は
あんな恋を経験するものなのだろうか?
今は完全に"一筋縄ではいかない"
訳あり人生を歩いてる(らしい)母さんや、
詳しいことは知らないけど
"一人で人生、やり直し"(らしい)の
綾ちゃんも、
1度くらいは
こんな幸せな顔を出来る恋を
経験したことがあるのだろうか。
もしそうだとしたら、
なんで幸せを失ったのか?
かわりに手にいれたものはあるのか?
…そもそも今は、幸せなのか?
高校生らしい彼女を見ながら、
俺が考えるのは
逞しい大人の女たちのことで。
…俺、ちょっと、環境、特殊すぎ?
いやいや俺は、
"普通"に生きていきたいんだけど?!