第129章 あなたにもう一度第三幕(16)
私はもう一度溢れ出しそうになる涙を止め、鼻を啜り、竹千代の肩にポンッと両手を乗せる。
「もうすぐ父上帰ってくるからお出迎えして、素敵な姿見せてあげて」
「はい!!」
「あ、い!」
それから自分の中の一番の笑顔を探して、二人に見せて、最後に小さな背中を二つ……そっと前に押す。
(いってらっしゃい)
パタパタと廊下を走る音。それに耳を澄まし、二人に触れていた指先をぎゅっと握りしめる。完全に足音が聞こえなくなり、暫くしてから私は隣の部屋に仕舞ってあった物を部屋に運び、一つ一つ並べ短い文を添える。
最後に家康宛の物を置いた文机。
「……っ、くっ」
胸が痛くて堪らず……
口元に手をあて、必死に抑え込む。
まだ、溢れないで。
震える手で、短い文章の中に一生懸命自分の想いを綴り……何度も謝った。
「………っ、ご、…っめんねっ」
全ての用事を済ました私は隠して置いた履物を出し、裏口から出て沈む夕陽に向かって走り出す。
(いってきます)
肌が凍りつく。
冷たい風が……
私の背中を押した。