第120章 あなたにもう一度第三幕(8)
溢れそうになる涙を必死に押し返し、心を壊す。
動揺したらいけない。
気付かれてはいけない。
頭の中にそれだけが浮かぶ。
「………何のことですか?少し、ぼっーとし…て…っ…!」
けれど背中に突然強い力が入り、先の言葉を奪う。
「何でそんな嘘っ……だったら今、俺がどんな顔してるか………解るの?」
(……………解るよ。例え見えなくても、家康が今どんな顔してるかなんて)
すぐに解るよ。
でも、それを答えたら……
当ててしまったら……
記憶がある事まで気付かれてしまう。
「…………いつから?」
苦しいほど、回された腕の力が強くなる。
「いつから俺が見えないの……」
「…………目覚めた時からです」
私は心を落ち着かせ、正直に答えた。
嘘で塗り固めてしまえば後々、それが余計に全てを曝け出してしまいそうで……それだけは、どうしても避けたかったから。
「………子供達には言わないで下さい。これからは出来る限り女中さんに、側に居て貰うようにします」
そう言って、身体を離そうと後ろに足を引いた時だった。
「んっ……!!」
柔らかい感触が唇に降りてきて……
《トンッ……》
背中に壁がゆっくりとぶつかる。
「……なん……で、なん、でっ!俺の……ぶんまで背負っ………」
(ごめんなさい……っ…)
「ひまり……ばっ、か…りそんな……」
その言葉を聞いて……母がきっと話してしまったのだと、思った。辛い想いなんて、もうして欲しくないのに……。
ほんの少し伸ばした手に、冷たい雫が二、三滴落ちる。
それだけは
見ることが出来た。
私の本当の運命は
まだ、
変わっていなかった……
なら、今度こそ
変えてみせる。
俯いたまま……
私の瞳からも
静かに
雫が落ちる。
これは決意の「証」
私は最後まで
自分らしくいたいから。