第120章 あなたにもう一度第三幕(8)
あの後、部屋で夕餉を終え、二人きりにならないように家康を避けながら、私は後片付けを始める。
さっき夕食の時に触れてみた竹千代の頭。そしたら腫れも少し引いていて、何より元気な声に戻っていたことにホッとして、胸を撫で下ろすことが出来た。
昼間、何かが打ち付ける音の後に泣き声が聞こえた時は本当に驚いて……少し転けたぐらいなら、いつも自力で立ち上がるまで待っていたけど……。
(状況も怪我の具合も解らないと……)
不安で仕方なかった。
井戸から汲んできた水で、茶碗をすすぎカチャカチャと音を立てながら棚まで運ぶ。
(これが終わったら、竹千代の袴をそろそろ完成させないとね)
《ドンッ》
「!!!!」
だから、
少しも気付かなかった。
いつも耳を澄まして、
音で判断していたのに……
今、目の前に
家康が立っている事に
私は……
気付く事が出来なかった。
カチャ……。
落としかけた茶碗。
ふらついた私の体を……温かい手が支える。
「……………やっぱり、見えないんだね」
耳元に悲しみに満ちた……
家康の悲痛な声が届いた。