第120章 あなたにもう一度第三幕(8)
私は手拭いを握りしめひと気のない裏庭まで来ると、木に隠れ背中を預ける。
(ごめんなさいっ……)
ズルズルと冷たい雪の上に座り込む。
謝らないといけない事があり過ぎて……一番に何から謝れば良いのか、もう解らなかった。
記憶を失ったフリをして……愛する人の表情が解らないのに、姿が見えないのに……嘘ついて、誤魔化して……。
天女に戻れば昼間は会えない。
もしかしたら、もう二度と下界に降りる事が許されないかもしれない。
子供達の成長が見れても……
同じ場所で過ごせない。
私はこの姿のまま
家康と一緒に
年を重ねる事も
出来ないまま……
過ごすことになる。
(無理だよ……こんな話。出来るわけないっ……)
家康には絶対、言えない。
神との契約のことも……
とても話せない。
(だから、お母さんは私の記憶を……)
「ひまり!!」
少し離れた場所から、家康が私を呼ぶ声が聞こえて……
(来ないで……っ…)
息を押し殺し、手で口元を覆う。
「ひまり、話がある!!」
近づく声に必死に身を隠し……
涙を凍らせる。
(こんな顔見せれないよ…っ…)
家康は包み隠さずこれからはちゃんと話す。って約束してくれたのに……。
「大事な話したいから!!」
(お願い……今は見つけないで……)
針のように冷たい雪が体に突き刺さる。それでも私は家康の足音が遠くなるまで、ずっと……まるで石になったみたいに、動かなかった。