第117章 あなたにもう一度第三幕(5)
湯浴みを終え部屋に入る。すると、部屋の中でひまりはただぼっーと窓の枠に肘を立て、寄りかかり月を見上げていた。
(……………)
その姿があまりにも綺麗で儚くて……。暗闇の中で光を放ち、咲いていたあの幻の花のように……決して摘んではいけない存在に思えてしまう。
初めて一つになったあの夜のように、また消えてしまいそうで……不安だけが付き纏った。
(ひまり……)
俺は静かに近づき、無意識に髪に触れ口づけを落とす……。すると凄い勢いで振り返ったかと思えば、驚いたように瞳が大きく震えるのを見て俺は咄嗟に謝り、手を離した。
「ご、ごめん。つい、いつもの癖で」
「………い、いえ、私の方こそ………急に振り返ったりしてすいません」
子供達はもう寝たのか尋ねると、ひまりは床に視線を落とし小さく頷き口を閉ざす。
「…………月を見てたの?」
俺は隣に座り、月を見上げる。
「……はい。月が何故、昇るのか……真剣に考えていました」
(月が昇る理由か………)
そんな風に考えた事もない俺は、暫く口を閉ざした後……。
「……………必要だからじゃない?」
ボソッと答える。
「え……」
「夜の空に、俺達の生活に……無くてはならない存在だからね、月は……」
大した理由になってないけど、と俺が苦笑いするとひまりと一瞬だけ目が合った気がした。